先月12月15日に米国特許商標庁(USPTO)は、特許発行の電子化を実施するための規則案を発表しました。この規則案では、発行された特許を紙ベースで特許権者に郵送する慣習を廃止し、電子的に特許を発行することを提案しています。
デジタル化が世界的に加速する中で、この流れは必然だったのかもしれません。また現在、アメリカでは多くの人が自宅で仕事をしているので、このタイミングで特許庁はさらなる電子化をすすめることにしたのかもしれません。
面白いことに、2020年3月からすでに中国の知財庁は紙の特許付与証の発行を停止しているので、今回のUSPTOによる規則案が採用された場合、2つ目ケースになります。
紙ベースでの郵送を原則廃止することで、発行された特許の待ち時間を2週間短縮することが期待されます。従来よりも早く特許が発行できるので、特許権者に利益をもたらすと言われています。しかし、この期間短縮には、重要な副作用があります。
一般に米国特許実務では、審査官が特許出願を許可するのに適していると判断すると、審査官は許可通知(Notice of Allowance)を発行し、発行手数料の支払期限を設定します。そして、納付が完了すると、特許番号と発行日を記載した発行通知が送付されます。しかし、この2つの連絡の間には、多少の時間がかかることがあります。例えば、米国特許第11,139,690 B2の発行通知は2021年9月15日に通知されていますが、約3週間後の2021年10月5日を特許付与日としています。
提案されているルールが適用されると、この通知から特許付与日までの間が2週間短縮されるようになるので、上の例で言うと、通知と付与日までの時間差が1週間に短縮されることになります。
一見いいことだけの用に見えますが、米国では、特許出願が係属中である限り、すなわち、特許出願が許可または放棄される前に、その後の継続(Continuation)または一部継続(Continuation-In-Parts)出願を行うことが認められています。このような継続出願は、特許権者が投資を確保するために発明の特許を保持し、また、潜在的な侵害者を追及するために使用できる出願を保留することができるので、戦略的に使われることがあります。
しかし、今回のルールが採用されると、今までよりも付与された特許が発行されるまでの「待ち時間」が短縮することになるので、継続出願について決断するまでの時間が短縮されることになります。
ギリギリまで待って継続出願等の判断をしている場合、新ルールが適用されると「時間切れ」になってしまうこともあるので、特許出願の継続・一部継続出願に関しては遅くとも許可通知書が来て費用を支払う段階までに最終決定し、必要な手続きを行う方がいいでしょう。