特許クレームでは「約」(About)という言葉が多様されていて、訴訟において「約」(About)が問題になるくらい重要な問題に発展する可能性があります。特に、製薬系の発明では特に敏感になる問題でもあります。そこで今回は、その”About”を使いこなす上で重要なポイントをまとめてみました。
Aboutとは何か?
特許クレームの範囲における特定の数字(例えば、約0.001%(w/w)の賦形剤からなる製剤、a formulation comprising about 0.001% (w/w) of an excipient)の前につけられる「約」(about)という言葉は、発明者が誤差を含む特定の数値の平均、または発明者が特許で定義した「約」(about)の言葉内に入る範囲を希望したことを示唆してしています。
「約」(About)の一貫性のない使用、例えば、クレーム(例えば、0.001%(w/w)の賦形剤を含む製剤、a formulation comprising about 0.001% (w/w) of an excipient)では使用されていないが、特許の他の部分で他の範囲や特定の点を示す文脈で使用されている場合、発明者が「約」をいつ使用して、いつ使用してはいけないかを理解していたことを示唆する可能性があります。このような一貫性のない “about “の使用は、特許クレームの範囲にはないが特許の他の箇所にはある場合、発明者が特定の点のみを特許化したいが、範囲内の細かい変動に該当する範囲や、確実に範囲外のものは特許化したくないと解釈される可能性があります。
なぜ「約」(About)が重要なのか
上記の例では、「約0.001%(w/w)」と「0.001%(w/w)」の間で、狭義のクレームは、製剤がまさに規定量である0.001%(w/w)を有するものであると言えます。そして、広義(broader)のクレームと狭義(narrower)のクレームの間で解釈の判断に迫られた場合、裁判所は通常、事実(実験の詳細及び/又は科学的根拠)が狭義の解釈をサポートすると仮定し、狭義の解釈(すなわち、実験の予想範囲外の変動を含まず、0.001%(w/w)の正確な量)を採用する可能性があります。
範囲内の特定の点に関する矛盾した解釈を避けるには?
特許出願における「約」という語の矛盾した使用は、特定の点の前と範囲内(例えば、約0.001%(w/w)の賦形剤1、および約0.01%~約1%(w/w)の賦形剤2を含む製剤。a formulation comprising about 0.001% (w/w) of excipient 1, and about 0.01% – about 1% (w/w) of excipient 2)でこの語を一貫して使用することで容易に改善することができます。
あるいは、「約」という言葉を決して使用しないことに一貫してもよく、例えば、請求された賦形剤の文脈で「約」という言葉が決して現れない特許において、0.001%(w/w)の賦形剤1、および0.01%-1%(w/w)の賦形剤2からなる製剤としてもいいでしょう。
「未満」または「以上」という表現は?
医薬品の製剤には、次のような文言が含まれることがあります:「1%(w/w)以下」(“1% (w/w) or less” )、「0.1%(w/w)以上」( “0.1% (w/w) or more”)。このような場合に、「約」(About)という言葉を使用するか決める場合に以下の2つの点を考慮する必要があります。
1つ目は、事実(データ/科学的根拠)に応じて「約1%(w/w)以下」(“about 1% (w/w) or less”)または「約0.1%(w/w)以上」(“about 0.1% (w/w) or more”)と主張する場合、その範囲は、特許に記載されているか、技術分野で一般的に理解されているように、1%または0.1%(w/w)前後の誤差を含むと解釈することができるかもしれません。基本的に、そのような状況では、例えば賦形剤の1%(w/w)の誤差範囲内(あるいは、特許において「約」がどのように定義されているかに応じて、それを超えても)の模倣薬製剤は、クレームを侵害していると判断される可能性があります。
2つ目は、「1%(w/w)以下」(“1% (w/w) or less” )または「0.1%(w/w)以上」(“0.1% (w/w) or more,” )とクレームされている場合、事実(すなわち、データ/科学的根拠)によっては、特許に記載されているか技術分野で一般的に理解されているように、1%(w/w)または0.1%(w/w)周辺の誤差を含まない範囲と解釈される可能性があります。基本的に、このような状況では、クレームされた1%の賦形剤の予想されるわずかな実験的変動をわずかに上回る、すなわち、例えば、賦形剤が正確に1%(w/w)ではない模倣医薬品製剤は、クレームを侵害しないと判断されるかもしれません。
“About”についての矛盾を避けるには?
- 必要がなければ、出願書類のどこにも “about “を使わない
- 範囲及び範囲内の特定の点を説明するときは、特許クレームの範囲及び明細書全体を通じて常に”about”を使用する
- 使用する場合は、通常の実験誤差の範囲外を含むように”about”を定義する
- クレームにおいて範囲を示していた部分を特定の数値に修正する場合は、”about”を使用する。
- 例:「約0.01%~約1%(w/w)の賦形剤2」→「約0.05%(w/w)の賦形剤2」と修正する(“About 0.01% – about 1% (w/w) of excipient 2” → “about 0.05% (w/w) of excipient 2”)
- 絶対に「0.05% (w/w) の賦形剤2」(“0.05% (w/w) of excipient 2”)と修正しない
- 事実(すなわち、データ/科学的根拠)が”about”の使用を支持する場合、審査中に、範囲内の特定の点の文脈で”about”という単語がない主張や文章を決して提出しない
- 事実の裏付けがない場合、”about”は絶対に使用しない
- 裁判所は、内在的記録(intrinsic record)に基づく誤差(例えば、内在的記録がそのような解釈を支持する場合、5%の変動)を含むように特定のポイントを解釈する可能性があります
まとめ
”About” を活用する鍵は、一貫して使うか使わないかであり、発明者が特許を意図したものについての事実や他者(裁判所を含む)の解釈には決して依存しないことです。