オンセールバーの主張は基準日が重要

特許でクレームされている発明が過去に販売されていた場合、オンセールバー(On-sale bar)を主張することで特許を無効にできる場合があります。このような主張をする上で大切になってくるのが基準日(critical date)です。今回のケースはオンセールバーの主張をする際に、いかに基準日以前の証拠を集めるのが重要かを強調するものでした。

Sysmex Co. v. Beckman Coulter, Inc., 2022 U.S. Dist. LEXIS 103757 (D. Del. June 9, 2022) において、Bataillon裁判官は、Beckman Coulter(「BCI」)によるオンセールバーの主張を考慮しても2つの特許のいくつかのクレームの有効性を支持するSysmexの要請を支持しました。

オンセールバーによる特許の無効化を主張

問題となった特許(米国特許第10,401,350号および第10,401,351号(それぞれ「350特許」および「351特許」))は、「血液サンプルまたは体液サンプルを検知するための複数の検出器を有するサンプル分析器」を記載したものです。

SysmexはBCIが両特許を侵害していると主張し、BCIはAdvia 2120とAdvia 120という2つの異なる製品に基づいて、35 U.S.C. §102(b) のオンセールバーにより両特許が無効であることを主張しました。両製品はSiemensが所有し、検査室向けに設計された血液学分析装置です。

オンセールバーの条件

オンセールバーが適用されるためには、被疑侵害者は、発明が(1)商業的な販売申し出の対象であったこと(the subject of a commercial offer for sale )、及び(2)特許取得の準備が整っていたこと(ready for patenting)の両方を証明しなければなりません。

特許取得の準備が整っていることの要件は、「基準日(critical date)前に実施に移されたことの証明、または、基準日前に、発明者が、当業者が発明を実施できるように十分に具体的な発明の図面またはその他の記述を作成していたことの証明」(“proof of reduction to practice before the critical date or by proof that prior to the critical date the inventor had prepared drawings or other descriptions of the invention that were sufficiently specific to enable a person skilled in the art to practice the invention.” )のいずれかによって満たすことができます。

オンセールバーの証拠として提出されたマニュアルは基準日より後に印刷されたものだった

このケースでは、基準日(critical date)は2007年1月31日でした。BCIは、Advia 2120は、基準日の時点でオンセールバーに該当し、’350特許と’351特許の両方が無効であると主張しました。連邦地裁判事は、Advia 2120が基準日前に米国で販売されていたとしても、Advia 2120製品が両特許の主張するクレームの新規性を失わせる、または自明にすると結論づけるには証拠が不十分であると判断しました。

これは、BCI社がAdvia 2120の機能を示すために依拠したマニュアルが、基準日である2007年1月31日以降、すなわち2008年に印刷されたものであったためです。このマニュアルは、基準日以前のAdvia 2021の機能を適切に示すことができなかった、と述べています。

専門家の「個人的な経験」は支持されず

専門家の証言によるBCIの追加証拠も十分ではありませんでした。専門家は、「(自分の)経験とは何か、それがどのように自分の意見を支えているかを説明せず、また、別の裏付けとなる証拠も存在しませんでした」。この証人の説明は、裏付けや確証のない「個人的な経験」に基づくものであるため、略式判決を妨げるには曖昧すぎると判断し、連邦地裁判事はAdvia 2120とAdvia 120の製品を同一視する専門家の発言は支持されないと結論付けました。

連邦地裁の決定

連邦地裁は、判事の判決を採用し、BCIの主張を全て退けました。Adviaのマニュアルに関して、同裁判所は、Advia 2120の記述が2007年ではなく2008年のものであることから、「裁判で解決すべき」事実上の争点がないと判断しました。

教訓

略式裁判の申立ては、重要な事実について真正な争いがなく、申立て人が法の問題として判決を受ける権利があることを示せば、裁判の結果を左右する可能性があります。

オンセールバーに関する場合、「基準日(critical date)」は重要です。提出する証拠は、基準日前の販売に関する主張をサポートするために、正しい日付範囲であることを確認してください。

結論ありきの、裏付けのない議論は、常に不十分であるとして攻撃されやすいものです。発行されたクレームは有効であると推定されるため、それに対する異議申し立てが成功する可能性を持つには、証拠によってサポートされていなければなりません。

参考文献:On-Sale Bar: The “Critical Date” is Critical

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