obvious to try の基準が厳格化されクレームされている範囲に関する記述も求められることに

Teva Pharmaceuticals, LLC v. Corcept Therapeutics, Inc., Docket No. 21-1360 (Fed. Cir. 2021) において、米連邦巡回控訴裁は、発明が「試みることが明らか」(obvious to try)であるとして無効とされる場合の厳しい基準を明示し、特定の特許を強化するかたちになりました。 同裁判所の判決によれば、特許が無効とされるためには、いくつかの選択肢の中から合理的に成功が期待できるものを試すことが自明であっただけでなく、特許で主張される発明の正確な範囲が合理的に成功することが期待できたことが必要であるとされています。

今回の判例では、後発医薬品メーカーのTeva Pharmaceuticalsが、クッシング症候群の治療方法をカバーする特許の無効を求め、「試みることが明らかである」(obvious to try)という基準でこれを行おうとしていました。「 試行自明」(obvious to try)基準では、通常の技術者であれば、自分の技術的把握の範囲内で既知の選択肢を追求する正当な理由があり、そうした選択肢を追求した結果、予想される成功に至った場合、その発明(例えば、新規な方法)は技術革新によるものではなく、通常の技術や常識の結果であると考えられる場合に、発明に対するクレームは自明とみなすことができるとしています。

今回のTeva事件では、対象となる方法は、ある薬剤の典型的な投与量を1,200mgまたは900mgから600mgに減らし、その投与量と第2の薬剤を併用することをクレームしていました。Teva社は、特許審判委員会(PTAB)に対し、2つの薬剤を一緒に投与することは自明であり、薬剤開発者にとっては、安全なレベルに達するまで異なる投与量を試すことは自明であったはず、したがって、特許は無効とされるべきであると主張しました。

しかし、PTABはこれに同意せず、Teva社は、600mgを試すことが自明であり、600mgの用量が有効であると合理的に期待できたことを証明しなければならないと判断しました。

Tevaは、PTABが誤った基準を適用したと主張し、連邦巡回控訴裁(CAFC)に控訴。Tevaは、PTABが適用した基準は、本質的に先行技術が特許取得方法を正確に予測することを要求するものであると主張しました。しかし、CAFCはこれに同意せず、PTABが適用したのは正しい基準であり、”成功の合理的期待分析は、クレームされた発明の範囲と結びつけられなければならない “(the reasonable-expectation-of-success analysis must be tied to the scope of the claimed invention)と判断しました。今回の事件では、特許を無効とするためには、先行技術によって600mgの投与が自明となり、具体的には、600mgの投与が有効であるという合理的な期待を与えるものでなければならないという基準が設けられました。CAFCは、この基準に対して、「絶対的な予測可能性は要求されない」(absolute predictability is not required)ので、その方法が確実に成功することは要求していないとしています。

このように、無効基準を満たせなかったため、Teva Pharmaceuticalsによる特許異議申し立ては失敗し、米国特許第10,195,214号は引き続き有効であり、執行可能であるということになりました。

実務上の注意

今回のCAFCの見解は、どのような場合に特許を試みることが自明であるとみなされるのかをより明確にし、これまで無効性の挑戦を恐れていた特許出願人を勇気づけるものと思われます。この判決により、特定の特許に対する異議申し立てがより困難になる可能性があるため、独自の基幹プロセスのために企業秘密の保護に頼っている企業は、事業の中断を避けるために、競争に先行して特許保護を申請することが望ましいと思われます。

参考文献:If at First you won’t Succeed, it may not be “Obvious to Try”

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