訴訟の対抗策としてのIPRであっても任意性があるため弁護士費用は認められない

連邦地方裁判所は、訴訟の被告が当事者間審査手続(IPR)において問題となった特許の無効化に成功した場合であっても、35 U.S.C. § 285に基づく弁護士費用を受けられないということを示しました。裁判所は、IPRは被告人侵害者が自発的に開始したものであるため、IPRに関する作業は、§285の目的である特許侵害「事件」ではないと説明ました。

ケース:Sherwood Sensing Solutions LLC v. Henny Penny Corp., 3:19-cv-00366 (S.D. Ohio May 20, 2022).

侵害訴訟で訴えられた後、被告人はIPRを特許庁に申請し、特許の無効化に成功

この事件で、原告は、被告の「自動上蓋式」食品用フライヤーに基づく特許侵害で被告を訴えました。その翌月、被告は、クレームを無効化すると主張するいくつかの先行技術を原告に提示。その後、被告は、特許の各クレームは、これらの文献により新規性がないと主張し、IPRを申請しました。IPRの審査において、審査委員会は、最終的に全てのクレームが提出された文献により新規性なしと判断しました。

裁判の取り下げを受け、訴えられた被告人は弁護士費用を請求

このIPRにおける特許無効の決定を受け、連邦地裁は訴訟を却下し、被告は適時に§285に基づく弁護士報酬を請求しました。§285には、裁判所は、例外的に(exceptional cases )、勝訴した当事者に合理的な弁護士費用を与えることができる、と書かれています。

被告によると、原告は、裁判所と審査委員会で一貫性のない立場をとり、無効となる技術を提示されたにもかかわらず訴訟を進めるなど、軽薄な訴訟を追求したと主張。その一方で、原告は、連邦巡回控訴裁の通説と、この件に関する法律の沈黙は、IPRにおける業務に弁護士費用が利用できないことを示していると主張し、この申し立てに反対。被告は、再発行手続きにおける特殊な状況を扱った連邦巡回控訴裁の判例に依拠し、紛争はIPRを通じて完全に解決されたので、IPR手続きは§285の目的のために特許侵害「事件」の一部と見なされるべきだと主張し、反論しました。

しかし、IPR手続きに関する弁護士費用は認められず

連邦地裁は、最終的に、§285の弁護士費用はIPR手続きに適用されないという原告の意見に同意しました。連邦地裁は、法律の文言と文脈の両方、及び、IPR中に完了した作業に対して弁護士費用を認めることはできないという連邦巡回控訴裁の通説に依拠しました。IPR手続きは任意であり、侵害を疑われた被告人は、自ら進んで申立書を提出することにより、IPR手続きを始めることができます。このような自主性があるため、IPR手続きに関する費用等は§285に基づく弁護士報酬を受け取る権利に含まれないと、裁判所は判断しました。

強制的な費用と自主的な費用

特許訴訟時に、裁判所の手続きとは別に、裁判で訴えられた側がIPRを特許庁に申請し、権利行使されている特許を無効化するという戦法はよく使われます。訴えられた被告人としては、裁判における弁護はある意味絶対にやらないといけない「強制的」なもので、特許権利者が「いやがらせ」目的でおこなった訴訟であっても、自分たちの弁護費用は必ず払わないといけません。

その一方、IPRは(訴訟の有無に関係せずに)自主的に始めることができ、訴えられた被告人が訴訟の対抗策として行うかどうかは、被告人の選択になります。特許の無効化の主張は裁判所でも行えるので、IPRを必ず行う必要はないのですが、文献による無効理由が主張できる場合、裁判を有利に進めるため、IPRを活用することが多い傾向にあります。このように、被告人側は、IPRをする(しない)かを選べる立場にあるため、その費用は裁判の弁護のような「強制的に」発生するものではありません。

このような費用の特徴の違いが、今回の判決に影響を及ぼしたのかもしれません。

特許訴訟といっても様々で、権利者がちゃんと調べて権利行使してくるケースもあれば、ほぼ何も調べずにただ単に金銭的なモチベーションから安易に訴訟をしてくることもあります。後者のような軽率な訴訟(frivolous lawsuit)に勝訴した場合、§285例外的なケース(exceptional cases )として取り扱われることもありますが、今回のケースを見る限り、そのようなケースでIPRをした場合、IPRは自己負担になると考えておいた方がいいでしょう。

参考文献:Voluntary Nature of IPR Proceedings Forecloses Attorney’s Fees, According to District Court

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