NDAには有効期限が明記されているものも多いですが、有効期限を設けることが望ましい場合でも、NDAが失効した後に、以前は機密であった情報の自由な使用が認められる可能性があることを考え、適切な期限を設けることが必要です。
米国第9巡回区控訴裁判所は、機密保持契約(NDA)に基づく営業秘密横領事件で、6,000万ドル以上の裁定を下した連邦地裁の判決を覆し、NDAの終了日以降に発生した情報開示は横領請求の対象とならないと裁定しました。
競合同士の話し合いと顧客争い
BladeRoomとEmersonは、データセンターの設計・建設の契約を競い合っていました。2011年8月、両社はBladeRoomのEmersonへの売却の可能性を検討。BladeRoomは、英国法に準拠したNDAを作成し、両当事者はこれに署名します。重要なのは、NDAに「本契約は、本契約の締結日から2年後に終了する」と規定されていたことです。この買収商談は最終的に失敗に終わります。
それから間もなく、フェイスブックはスウェーデン北部にデータセンターを建設する計画を開始。2012年7月にBladeRoomが設計を提案し、その数ヵ月後にはEmersonが設計を提案しました。2012年10月、フェイスブックはEmersonのデザインを口頭で承認しました。それから約1年後、FacebookはBladeRoomに提案内容の更新を求める連絡をし、2013年11月、FacebookはEmersonの提案を採用。
FacebookとEmersonは2014年3月に設計施工契約を締結しましたが、その際にBladeRoomはEmersonが提案したデザインを知ります。BladeRoomは、EmersonがNDAに違反し、BladeRoomの企業秘密を流用したと主張して、FacebookとEmersonを訴えます。
地裁訴訟ではNDA失効日は関係なし
この事件は陪審員によって審理されました。裁判中、BladeRoomはFacebookと和解しましたが、Emersonとは和解しませんでした。
最終弁論の前に、Emersonは、2013年8月以降に開示または使用された情報(NDAが失効したとされる後)を除外する陪審員の指示を提案。しかし、連邦地裁はこの提案を拒否。その後、BladeRoomは、EmersonがNDAによって2013年8月以降にBladeRoomの情報を使用することを認められていると主張することを禁止するよう、制限申し立てを行い、連邦地裁はこの申し立てを認めます。
結局、陪審員はEmersonの責任を認め、1,000万ドルの逸失利益と2,000万ドルの不当利得の損害賠償を認めましたが、裁定を行うにあたり、違反と不正使用の請求を区別しませんでした。連邦地裁は、3,000万ドルの懲罰的損害賠償を認め、さらに2012年10月30日から始まる判決前の利息と、1,800万ドルの弁護士および専門家の証人費用を認めました。Emersonはこの判決を上訴します。
高裁ではNDAは失効すると判断
第9巡回区は、まずNDAが2年で失効するかどうかを検討しました。
同裁判所は、英国法を適用し、主に文言の分析に基づいて、NDAが失効すると判断しました。しかし、裁判所は、記録からは、違反や不正使用の疑いが生じた日を特定することができませんでした。したがって、判決を取り消し、再審を求めて再送しました。
また、第9巡回区は、再審でEmerson社の責任が認められた場合に関連する、控訴審でのいくつかの問題についても言及しました。懲罰的損害賠償は、カリフォルニア州の法律では契約違反には適用されないため、陪審員が契約違反と不正使用の請求を区別しなかった場合、懲罰的損害賠償額は記録に裏付けられていないと述べました。
また、判決前の利息については、契約違反の請求については訴訟提起日、横領の請求については損失発生日が開始日となるとしています。同裁判所は、連邦地裁が開始日を2012年10月30日とすべきであると判断したのは誤りであるとしました。なぜなら、その時点ではBladeRoomはまだデータセンター契約で争っていたからです。再審理において、連邦地裁は、BladeRoomが逸失利益の損害賠償に関して契約を失った日を決定し、不当利得の損害賠償に予見利息が適用できるかどうか、適用できる場合は不当利得がいつ発生したかを決定します。
実務上の注意点
今回の判例では、NDAにサンセット条項を盛り込んだ理由が、地方裁判所、控訴裁判所ともに不明瞭でした。このような規定を設けることが望ましい場合でも、当事者は、NDAが失効した後に、このような規定によって以前は機密であった情報の自由な使用が認められる可能性があることに注意する必要があります。
参考文献:NDA Sunset Provision Means Trade Secret Use May Not Be Misappropriation