NDAにおけるフォーラムセレクション条項にはIPRを起こす権利を喪失させる可能性あり

2月8日、米連邦巡回控訴裁(CAFC)は、秘密保持契約(以下、NDA)のフォーラム選択条項(forum selection clause)により、当事者が米国特許商標庁(以下、USPTO)で特許の有効性に異議を申し立てる当事者間審査(以下、IPR)の申立てを行う権利が喪失したという判決を下しました。

判例:Nippon Shinyaku Co., Ltd. v. Sarepta Therapeutics, Inc., No. 2021-02369 (Fed. Cir. Feb. 8, 2022)

この判例は、この問題に関して過去12ヶ月間にCAFCが出した2つ目の判例であり、フォーラム選択条項がIPRを申請する権利を喪失させることができると判示した最初の判例です。1つ目は、Kannuu Pty. Ltd. v. Samsung Elecs. Co. Ltd., 15 F.4th 1101 (Fed. Cir. Oct. 7, 2021)。この判例については後ほど説明があります。

事実背景

日本新薬株式会社 Ltd. (以下、「日本新薬」)とSarepta Therapeutics, Inc. (以下、Sarepta社)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬に関するビジネス関係を想定し、NDAを締結しました。このNDAには、フォーラム選択条項(forum selection clause)が含まれており、以下のように記載されていました。

“all Potential Actions arising under U.S. law relating to patent infringement or invalidity, and filed within two (2) years of the end of the [covenant not to sue] shall be filed in the United States District Court for the District of Delaware and that neither party will contest personal jurisdiction or venue in the District of Delaware and that neither Party will seek to transfer the Potential Actions on the ground of forum non conveniens.”

特許侵害または無効に関する米国法の下で発生し、[不訴追条項](covenant not to sue)の終了後2年以内に提起されたすべての潜在的訴訟は、デラウェア州連邦地方裁判所に提起されるものとし、いずれの当事者もデラウェア州の人的管轄または裁判地に異議を唱えず、いずれの当事者も法廷不適格という理由で潜在的訴訟の移送を求めないこと

この不訴追条項(covenant not to sue)は、2021年6月21日に失効。同日、Sarepta社は、日本新薬が保有する特許に対抗する7件のIPRを申請しました。2021年7月13日、日本新薬はSarepta社に対し、NDA違反の主張を含む特許侵害訴訟をデラウェア州にて提起。日本新薬は、Sarepta社に対し、IPR申請の取り下げを求める仮処分を申請しました。

しかし、連邦地裁は、IPR申請がNDAによって禁止されていることを日本新薬が示すことができる可能性が低いとして、日本新薬の申し立てを却下。連邦地裁は、(1)フォーラム選択条項が沈黙しているのに対し、当初期間中の不訴追条項(covenant not to sue)はIPR申請に明示的に言及していること、(2)フォーラム選択条項は人的管轄権と裁判地に言及しているため連邦訴訟を制限するだけであること、また、(3)フォーラム選択条項の期間が2年であるため、提訴からフォーラム選択条項の期間終了まで1年経過すると、期間外でもIPRを提訴する権利を失うという事態を招きかねず、その弊害は避けなければならない、という3つの理由からフォーラム選択条項がIPR申請の妨げとはならない、と判断しました。

契約書に明記されている文言はとても重要

しかし、CAFCは地裁の判決を覆し、Sarepta社はNDAに基づきIPRを申請する権利を喪失したと判断しました。

特許の有効性に対する異議申し立ては、デラウェア州で行わなければならず、USPTOに提出しなければならないIPRの申し立ては除外されました。この結果は、フォーラム選択条項の明確な文言に起因するもので、その条項により「特許侵害または無効に関する」訴訟に適用されるとのことです。

CAFCは、IPRの申請は明らかに特許の無効性に関連しており、したがって、この条項の範囲に含まれると解釈。この文言が明確であるため、フォーラム選択条項の意味を明確にするために、他の条項を参照する必要はないとし、さらに、フォーラム選択条項の対人管轄権および裁判地に関する言及は、連邦訴訟に限定されるものではないとしました。

問題になっているフォーラム選択条項の意味の意味は、「まずすべての訴訟をデラウェア州で起こすことを要求し、その後、いったん起こされた訴訟の裁判権に異議を唱えることはできない」とCAFCは解釈。最後に、この条項の明白な文言は、その文言を交渉した当事者に悪影響を及ぼす可能性があっても、それを覆すことはできないとしました。

1つ前の同じような事件では反対の結果になっていた

昨年10月に下された判例で、CAFCは、異なるフォーラム選択条項があっても、IPR申立ての権利が喪失することはないと判断しました。Kannuu Pty. Ltd. v. Samsung Elecs. Co. Ltd., 15 F.4th 1101 (Fed. Cir. Oct. 7, 2021)。この事件におけるフォーラム選択条項は、以下のように書かれていました。

”legal action, suit, or proceeding arising out of or relating to [the NDA] or the transactions contemplated hereby must be instituted exclusively in a court . . . located within the Borough of Manhattan, City of New York, State of New York, and in no other jurisdiction.”

「(NDA)またはここに意図された取引に起因または関連する法的措置、訴訟、または手続は、ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン区に所在する裁判所においてのみ開始されなければならず、他の管轄区域では開始できない」

NDAは、当事者間で可能な特許ライセンスの話し合いを円滑に進めるために締結されました。交渉が失敗した後、SamsungはKannuuの特許の1つの有効性に異議を申し立てるIPRを申請しました。Kannuuは、これに対し、特許侵害訴訟を提起し、SamsungがNDAに基づくIPR申請を取り下げるよう求める仮処分を求めました。

そこで、CAFCは、フォーラム選択条項がIPRの申請を禁止するものではないと判断。CAFCは、特許の有効性に対する異議申し立てが、フォーラム選択条項が要求する「(NDA)またはここに意図される取引に起因または関連する」ものではなかったと判断しました。

契約におけるフォーラム選択条項は当事者の意向を明確に示すように書くことが大切

この事件は、フォーラム選択条項が実体的な権利を制限する可能性があることを示す判例です。特許請求の範囲に関するフォーラム選択条項は、原告に有利な裁判地や遠方の裁判地で訴訟に引きずり込まれることを回避するために非常に有効です。しかし、そのような訴訟に対する防御としてIPRの申立てが盛んであることから、そのような申立てを行う権利が不用意に失われないよう注意する必要があります。

日本新薬で示された例では、特許無効を裁判地条項の範囲内に明示的に示すことによってIPR申立を阻止することが可能であることが示されました。

その一方で、Kannuuで示された例では、条項の範囲をNDAに基づく紛争に限定することによってIPR申立を許容することが可能であることが示されました。

さらには、NDAなどの契約書において、フォーラム選択条項にかかわらず、IPRの申立てを認めるかどうかを別途明示的に規定することも可能です。

いずれにせよ、CAFCは、フォーラム選択条項の文言がUSPTOへの申立を除外している場合、IPR申立を認めることはないでしょう。

参考文献:Forum Selection Clauses in Nondisclosure Agreements Can Forfeit the Right to File an IPR Petition

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