103条における自明の拒絶では、先行技術文献の組み合わせが必要であり、その組み合わせには動機(motivation to combine)が必要です。しかし、文献を組み合わせてクレームを自明とする解釈をする場合、1つの文献で示された「利点」が必然的に損なわれる場合、組み合わせの動機は失われるものなのでしょうか?この問題に対して、CAFCが判決を下したケースがあったので、紹介していきたいと思います。
先月、米連邦巡回控訴裁(CAFC)は、2つの最終書面決定におけるPTABの判示を支持する判例にならない決定(non-precedential decision)を下しました。P Tech, LLC(以下「P Tech」)は、米国特許9,192,395号(以下「395号特許」)のクレーム1及び4、 並びに米国特許9,149,281号(以下「281号特許」)のクレーム1~20を拒絶するPTAB決定を不服として控訴していましたが、引用先行技術である米国特許5,518,163(以下「Hooven」)と米国特許6,331,181(以下「Tierney」)の組み合わせから自明であったため特許不可であると判断されました。
ケース:P Tech, LLC, v. Intuitive Surgical, Inc., No. 22-1102, No. 22-1115 (December 15, 2022)
対象となったクレームと用いられた先行技術文献
Intuitive Surgical, Inc.は、IPR申請において、「体組織を固定するためのロボット外科システム 」を対象とした’395特許および’281特許のクレームに異議を唱えていました。
Claim 1 of the ’395 patent recites
1. A robotic fastening system comprising:
a robotic mechanism including an adaptive arm configured to position a staple relative to a body portion of a patient;
a robotic arm interface configured to operate the adaptive arm of the robotic mechanism;
a staple having first and second legs;
a fastening member coupled to the adaptive arm, the fastening member having fist and second force transmitting portions and configured to secure the body portion with the staple by applying a force from the first and second force transmitting portions to move the first and second legs of the staple toward each other;
at least one of a position sensor configured to indicate a distance moved by the staple and a force measurement device configured to indicate a resistance required to move the staple relative to the body portion; and
a tissue retractor assembly coupled to the robotic mechanism, the tissue retractor assembly including a cannula configured to facilitate insertion of the fastening member through the cannula into a working space inside the patient.
Claim 1 of the ’281 patent recites
1. A robotic system for engaging a fastener with a body tissue; the system comprising:
a robotic mechanism including an adaptive arm, the robotic mechanism configured to position a fastener relative to the body tissue, the robotic mechanism having first and second force transmitting portions configured to apply at least one of an axial force and a transverse force relative to the fastener;
a computer configured to control the robotic mechanism; and
an adaptive arm interface coupled to the adaptive arm and the computer, the adaptive arm interface configured to operate the computer,
wherein a magnitude of the at least one axial force and transverse force applied to the fastener is limited by the computer.
先行技術文献のTierneyは、ステープラーを含む手術器具を取り付けることができるロボットアームを含むロボット手術システムを教示しています。また別の先行技術文献であるHoovenは、手持ち式の内視鏡用ステープリング及び切断器具を教示していました。
両当事者は、’395特許及び’281特許のクレームは、クレームされたロボット外科用ステープラーの頭部付近に関節接合部を必要としないことに合意しました。両当事者はまた、Intuitiveの申立てが、そのような関節が自明であったことを証明するものではないことに同意していました。
先行技術文献で示されている利点を損なう組み合わせは、組み合わせの動機を損なうものなのか?
特許を保有している側のP Techは、両訴訟において、先行技術文献のTierneyとHovenを組み合わせる動機の欠如(Lack of motivation to combine)を主張することに焦点を当てました。特に、P Techは、課題となっているクレームはステープル留め装置のヘッド付近の関節を必要としないものの、引用技術には、そのような関節の利点が記載されている点に注目。それにも関わらずTierneyとHovenを組み合わせて’395特許及び’281特許のクレームを満たすようにするためには、Tierneyで利点として強調されている「関節」が失われるため、当業者には、これらの文献を組み合わせる動機がなかったであろうと、P Techは主張しました。P Techは同様に、文献を組み合わせてできる装置は、装置を操作する外科医へのフォースフィードバックを含む他の有益な機能を欠くことになると主張しました。
PTABは、「仮に、申立人であるIntuitive社の提案する組み合わせにより、Tierneyに組み込まれた望ましい『器用さや他の利点』が失われるとしても」、「ある行動方針は、しばしば利点と欠点を同時に持っており、これは、組み合わせる動機を必ずしも排除するものではない」と判断しました。言い換えれば、PTABは、先行技術文献の組み合わせが所望の利益を提供しないとしても、そのような結果は必ずしも組み合わせの動機を否定するものではないと判断したのです。
また、PTABは、Intuitive社が、「Hovenの携帯型ツールをTierneyのロボットシステムに組み込むことで、手動操作の器具に比べて精度が向上し、外科医はHovenの携帯型ツールに切り替える必要がなく、手術中Tierneyのロボットシステムを使用できるようになることを十分に立証している」ことで組み合わせる動機を十分に立証したと判断しました。
しかし、CAFCに上訴したP Techは、PTABによる組み合わせの動機に関して、関節接合部の利点を説明する先行技術の開示を不適切に無視又は除外することにより、PTABが組み合わせの動機付け分析を行う際に誤ったと非難しました。
組み合わせの利点・欠点を「総合的に」考慮し動機の分析は行われるべき
このPTABの判決と上訴したP Techの反論を考慮した結果、CAFCは、「組み合わせの動機分析は、自明性の全体的な検討に関連する事実である『組み合わせない理由』も考慮しなければならない」というP Techの主張は正しいと認めました。したがって、「組み合わせが操作不能で、望ましくない性質を呈するような場合には、組み合わせる動機がない可能性がある」ことを示しました。
しかし、CAFCのパネルは、「組み合わせの動機付けの分析における、放棄された未請求の利益の関連性は、不確かである」とし、PTABが全ての証拠を明示的に検討し、組み合わせにより生じる他の利点に基づく組み合わせの動機付けに関するIntuitive社の提示を覆すには不十分であったと判断しました。
ここで問題となったのは、引用文献が「関節」のような利点を開示している場合、主張された組み合わせの動機が、クレームで主張されていない「関節」のような利点を損ねるものであった場合、組み合わせの動機を覆すものかでした。
この問に関して、PTABは、今回争われた「関節」のようなIPRでチャレンジされたクレームでは示されていない利点に関する主張は、組み合わせの動機の分析を覆すことはできないと結論付け、CAFCはその決定を支持しました。
しかし、CAFCの決定が論じているように、PTABは、文献を組み合わせることによって他のいくつかの利益が達成されたことも認め、文献を組み合わせる動機が依然として存在するという結論を支持したのです。ここでの要点は、適切な結合の動機があるかどうかの評価は、事実上の証拠が示すものに依存し、瞬時にクレームされない利益の欠如を示すことによって結合の動機がないことを主張する場合、他の利益が文献の結合によってまだ達成されているかどうかも考慮すべきであることを強調するものです。
そのため、文献の組み合わせの動機に関する主張を展開する場合、組み合わせの利点・欠点を「総合的に」考慮し、動機の分析を行うべきでしょう。
参考記事:CAFC Affirms Obviousness Rejections Regarding Lack of Motivation to Combine