治療に関する発明の保護に関して、使用方法(MOU: method of use)やその他の補完的な特許クレームの範囲の価値を見ていきましょう。このようなクレームは、ライフサイエンス分野で他のクレームタイプよりも推奨されることの多い物質組成(COM: composition of matter)特許クレームと比較しても、大きな価値を有しています。
MOUクレームや、製剤、多形、結晶形、純度クレーム、診断クレームなどの補完的な保護は、医薬品有効成分(API: active pharmaceutical ingredients)に対して独立した強力な保護を提供することができます。過去15年間の医薬品認可の分析および最近の判例は、MOUクレームがCOMクレームとは独立した価値を有するという考え方をさらに強固なものにしています。
分析方法
今回は、過去15年間に米国でFDAの承認を受けたすべての低分子化合物(Abbreviated New Drug Applicationsを除く)を、承認時に受けた特許の種類によって区分して分析しました。
その結果、約半数(49%)が承認時にCOM特許の保護を受けていないことが判明しました。この数字は、APIを開発するためにCOM特許の保護が必要でないことを示しており、十分な投資対効果を得るためにはCOM特許の保護が必要でないことを示唆しています。
多くの人は、FDAの承認を得た新規化学物質(NCE: new chemical entities)は、必ずCOM特許の保護を受けると思い込んでいます。しかし、過去15年以内に承認されたNCEのうち、23%は承認時にCOM特許による保護を受けられていませんでした。
NCEの独占権を得られなかった低分子化合物のうち、承認時にCOM特許の保護を受けていたのはわずか19%です。一方、NCEの独占権を得られなかった低分子のうち、36%がMOU特許の適用を受けていました。
特許保護期間を最大化する手段
これらの分析が示すように、MOUクレームを含む補完的な特許保護の形態は、特許の適用範囲と特許期間の長さの両方にとって重要です。このようなクレーム範囲と特許期間の追加を、特許保護の同心円と考えることができます。この概念は、イノベーターが特許期間と様々なタイプのクレームカバーを追加しようとする従来の試みの日付と効果を示した年表として表すこともできます(参考記事の図を参照)。
最近の判例はMOUクレームの価値を強調している
実際、最近の判決では、MOUクレームの独立した価値がさらに示されています。このような主張は、いわゆる「スキニー・ラベリング」に特に関連しています。スキニー・ラベリング(skinny labeling)とは、発明企業のMOUクレームでカバーされていない適応症について、後発医薬品メーカーがAPIの規制当局への承認を求めることを可能にする行為です。
例えば、米連邦巡回控訴裁は、スキニーラベルは後発医薬品メーカーにとって実行可能なオプションであるが、後発医薬品メーカーは発明企業のMOUとスキニーラベルの範囲内の適応症を遵守しなければならないと指摘しています。そのため別のMOUや適応症に互換性があるとして販売することは、認められない可能性があります。
さらに、2022年1月、デラウェア州は、Amarin Pharma, Inc. et al. v. Hikma Pharmaceuticals USA Inc. et al. (1:20-CV-01630; D. Del.; Memorandum Opinion entered Jan. 4, 2022)において、重要な判決を言い渡しました。裁判所は、後発医薬品メーカーの製品が適切にスキニーラベリングされていたとして、後発医薬品メーカーの却下の申し立てを認めました。裁判所は、後発医薬品メーカーに対する請求は棄却したものの、保険会社に対する訴訟は、誘導侵害の理論に基づき進めることを許可しました。保険会社は、発明企業のMOUクレームの侵害を誘発したと訴えられてました。これは、経済的インセンティブだけでは誘発された侵害を立証するには不十分であるという従来の考え方を覆す、説得力のある見解です。そのため、保険会社はこの事件に注目しています。裁判所が保険会社に対する請求を棄却しなかったことは、最終的に業界の一般的な後発品代替の慣習を揺るがすことになるかもしれません。今回の判決とその影響は、発明企業のMOU特許請求権の独立した価値を強調するものです。
まとめ
今回の分析と上記の事例は、従来から評価されてきたCOMクレームとは別個の独立したMOU特許クレームの重要性を示しています。発明企業が、対応するCOMクレームを持たずにMOU特許クレームのみに頼ることをためらったために、どれだけの重要な治療薬が放棄され、あるいは棚上げされたことだろうかと思わされるものでした。
しかし、今回の情報から、MOUクレームは、低分子の承認から後発品の参入までのライフサイクルを通じて、強固な保護を提供することができることがわかったと思います。MOUクレームの価値が改めてわかったところで、発明企業とその弁護士は、治療に関する発明の保護を構築する際に、MOUクレームやその他の補完的な補償の価値を見落とさないようにすることが賢明でしょう。
参考文献には関連するグラフや図も載っているので、ぜひ見てください。
参考記事:Protecting your therapeutic assets: The value of method of use patent claims