Means-plus-functionクレームの侵害を示すには、構造体が(1)開示された構造体と同一の機能を、(2)実質的に同じ方法で、(3)実質的に同じ結果で実行しているという3つの証明が必要です。この3つの内どれか1つでも証明出来ない場合、侵害を示すことができないので、Means-plus-functionクレームを行使する場合、十分気をつけましょう。
判例:Traxcell Techs., LLC v. Sprint Commc’ns Co., Case Nos. 20-1852, -1854 (Fed. Cir. Oct. 12, 2021) (Prost, J.); Traxcell Techs., LLC v. Nokia Sols. & Networks Oy, Case Nos. 20-1440, -1443 (Fed. Cir. Oct. 12, 2021) (Prost, J.)
きっかけになった訴訟
Traxcell社は、複数の被告に対し、複数の関連特許を並行訴訟(parallel litigations)で主張しました。そのうちの1つは、無線機器とネットワーク間の通信を改善するために「是正措置」を行う自己最適化ネットワーク技術に関するものでした(SON特許)。そして、このSON特許には、2つのmeans-plus-function限定が含まれていました。もう1つの特許は、無線機器ではなくネットワークが機器の位置を決定するという、ネットワークベースのナビゲーションに関するものでした(ナビゲーション特許)。
Traxcell社は、SON特許とナビゲーション特許をVerizon社とSprint社に、SON特許をNokia社にそれぞれ主張しました。両訴訟において、判事は、主張された特許のいくつかの共通項を解釈し、SON特許のクレームは不明確であると判断するクレーム構築命令を下しました。下級裁判所は、この判事の解釈を採用し、その後、それぞれの特許について被告3社全員に略式判決を下しました。Traxcell社は、これを不服として控訴。控訴の争点は、特許侵害とmeans-plus-functionクレームの不明確性に関するものでした。
控訴審におけるmeans-plus-functionクレームの審議
3つの証明すべてについて言及することの重要性
まず特許権者であるTraxcell社は、SON特許についてSprint社に略式判決を下した下級裁判所の判決を争い、Sprint社の被告技術には、機能・方法・結果テスト(function-way-result test)の下で開示された構造と同等の構造が含まれていると主張しました。
主張されたクレームは、「前記電波塔から前記性能データと対応する位置を受信し、前記電波塔の無線周波数信号を修正する手段 」を必要とし、その対応する機能(corresponding function)は、”前記電波塔から前記性能データと対応する位置を受信し、前記電波塔の無線周波数信号を修正する手段 “でした。
CAFCは、このmeans-plus-function limitationの開示構造は、特許の「非常に詳細な」アルゴリズムであると説明。20年以上の判例を引用し、裁判所は、means-plus-functionクレームの侵害には、以下の3つの証明が必要であると強調した。すなわち、被告の構造体が、(1)開示された構造体と同一の機能を、(2)実質的に同じ方法で、(3)実質的に同じ結果で実行していることです。(the accused structure performs the (1) identical function, (2) in substantially the same way (3) with substantially the same result, as the disclosed structure.)
しかし、Traxcell社は、Sprint社の被告システムに関して、アルゴリズムの少なくとも9つのステップ、すなわち開示された構造について言及することを怠ったため(代わりに機能と結果に焦点を当てた)、CAFCは下級裁判所の非侵害の認定を支持しました。
必要な構造の開示
次の論点は、下級裁判所が、SON特許の別のクレームについて、明細書がmeans-plus-function限定に必要な構造(necessary structure)を開示していないことを理由に、不明確であると判断した問題です。
Traxcell社は、この不明確さの認定自体には不服を申し立てず、不明確さを修正するためにクレームを修正する許可を求めましたが、地裁は許可せず、Traxcell社が控訴します。
控訴審でCAFCは、「means-plus-functionクレームは、クレームされた機能を実行するための適切な対応構造を明細書が開示していない場合、不明確である」(means-plus-function claim is indefinite if the specification fails to disclose adequate corresponding structure to perform the claimed function)と説明し、従ってクレーム自体の修正は無駄であるとしました。
CAFCは、クレームに関して主張された構造としてのアルゴリズムは、位置情報に基づいた修正アクションを開示していないため、不十分であると判断。Traxcell社の「漠然とした憶測」に基づいて、位置データがどのように使用され、他の性能データがどのように使用されて位置ベースの修正アクションを提供するという明細書の記述に基づいて、必要な構造が開示されていると主張しましたが、CAFCはその主張を受け入れませんでした。さらにCAFCは、明細書には位置情報が実際に修正を行うためにどのように使用されるかは記載されていないと指摘。したがって、CAFCは、下級裁判所がTraxcell社に修正の許可を与えなかったことは裁量権を逸脱していないと判断し、非侵害の認定を支持しました。