特許クレームにおける”a”の意味の解釈はむずかしく、「少なくとも1つ」と解釈する判例もあれば、「1つ」と限定されて解釈される判例もあり、最高裁も”a”の意味で混乱している状況です。
まず、「少なくとも1つ」と解釈する判例としては、KCJ Corp. v. Kinetic Concepts, Inc., 223 F.3d 1351 (Fed. Cir. 2000)やBaldwin Graphic Sys., Inc. v. Siebert, Inc., 512 F.3d 1338 (Fed. Cir. 2008)があります。このような判決において、CAFCは、限定する明確な意図がない限り”a”を「少なくとも1つ」として解釈し、特に、”comprising “という表現を含むオープンエンドのクレームでは、”a “は “one or more “と解釈されるとしています。
しかし、同じCAFCであっても、毎回”a”を「少なくとも1つ」として解釈していわけではありません。
例えば、Harari v. Lee, 656 F.3d 1331 (Fed. Cir. 2011)では、CAFCは、”a”の意味を「1つ」と限定して解釈しています。ここで、CAFCは、クレームの文言と明細書が ”a”は1つだけを意味することを示している場合、‘comprising’ というオープンエンドのクレームの文脈であっても、”a”の意味を「1つ」と解釈することが適切であると述べています。特に、クレームで単数形と複数形の区別が何度も行われていたり、明細書でも単数形の解釈を支持しているようであれば、”a”の意味は「1つ」と限定して解釈されるべきということを示しています。
最高裁も”a”の意味で混乱しています。 最近では特許に関連するケースではないですが、Niz-Chavez v. Garland, 593 U.S. ___ (2021)において、政府が「出頭通知」を出すことを義務づけている連邦法の文脈において、この法律は、1回の通知を必要とすると解釈するのか、それとも、複数回の通知を認めるものなのかということが問題になりました。
Niz-Chavez事件は、単語 “a “の様々な解釈の可能性とその危険性について警鐘を鳴らしています。状況に応じて、そしておそらく裁判官やパネルによっても、”a “の解釈は変わる可能性があります。
“a “はクレームで頻繁に使われますが、クレーム作成時やチェックをする時に、”a”の意味が「1つ」なのか、それとも「少なくとも1つ」なのかを意識する必要があります。もし異なった解釈がされた場合に問題になるようなケースであれば、別のより確実な表現方法を考えることをおすすめします。
参考文献:Supremely Confusing on That Complex Word “A”; Is It Only One or Is It One or More?