特許訴訟において関連企業による逸失利益の賠償を得るための注意点

特許侵害訴訟において、ロイヤルティではなく、逸失利益の賠償を求めることがよくあります。しかし、侵害が認定されたとしても、そのような損害賠償を自動でもらえるのではなく、特許権者は逸失利益の損害賠償を受ける権利を証明しなければなりません。このような証明をする際、逸失利益の根拠となる商品を販売している会社が関連企業の場合、注意が必要です。

ケース:Intuitive Surgical, Inc. v. Auris Health, Inc.

デラウェアの判決において、複数の関連企業がまとめて逸失利益の損害賠償を求めている場合、この負担が特に困難であることを示しています。

この訴訟は、Intuitive Surgical, Inc. (以下、「IS」)とその完全子会社であるIntuitive Surgical Operations, Inc. (ISO) (以下、併せて「Intuitive Surgical社」)が提起しました。彼らは、Auris Health, Inc. (以下、「Auris社」)が、競合するロボット気管支鏡装置を製造・販売することにより、ロボット外科装置に関するIntuitive Surgical社の特許を侵害したと主張。ISO社は、訴訟の対象となっている特許を所有しており、低侵襲のロボット支援手術システムを製造し、親会社であるIS社に販売しています。IS社は、ISO社の手術システムの非独占的な販売代理店であり、顧客に販売しています。

Intuitive Surgical社は、Auris社のロボット気管支鏡装置が同社の特許を侵害しており、Intuitive Surgical社(すなわち、IS社およびISO社)は、Auris社の侵害がなければ同社の低侵襲性ロボット支援手術システムの販売で得られたであろう利益を得る権利があると主張。Intuitive Surgical社は、逸失利益損害賠償の理論を支持するために、損害賠償専門家の証言をしてもらいました。その証言によると、ISOは訴訟対象の特許を所有し、その特許技術をISに販売し、ISは手術システムを顧客に販売し、「そのお金は(ISO)に戻る」という理解を示しました。

ここでの問題が、特許権者と侵害販売により利益が失われた会社が違うということです。そのため、通常の逸失利益損害賠償の標準的な枠組みに合致しません。今回のケースでは、特許権者は子会社のISOで、その手術システムを親会社であるISに販売し、ISは顧客に販売しています。したがって、IS(特許所有者ではない)が、顧客への販売を失った企業となります。

この問題に対して、知財の判事は、特許権者は関連企業の逸失利益を自らの損害として請求することはできないという、長年にわたる連邦巡回控訴裁判所の判例を引用しました。

特許侵害による逸失利益を回復するためには、特許権者は、侵害がなければ追加の利益を得られたであろうという合理的な可能性を示さなければいけません。Intuitive Surgical社は、そのような「合理的な可能性」を示すために専門家に頼ろうとしましたが、判事いわく「これらの結論的な記述は、[ISとISO]が被った逸失利益をまとめて主張するには不十分である」ので、認められませんでした。したがって、Intuitive Surgical社は、「どのような理論や方法であれ、Auris社の主張する侵害がなければ、(子会社のISOが)追加の売上を上げていたであろうことを示していない。Intuitive Surgical社は、(親会社である)ISの逸失利益に関する理論と、(ISの)利益は必然的に子会社であるISOに流れるという結論的な記述を提供しているに過ぎない」と結論づけました。

教訓

今回の判決に基づき、特許侵害訴訟の親会社/子会社の原告は、逸失利益損害賠償の主張を裏付けるために注意を払う必要があり、以下を検討するとよいでしょう:

  • 損害賠償専門家の証言:親会社と子会社の間で利益が「不可分に流れる」という理論に基づいて、親会社と子会社の原告が逸失利益の損害賠償を主張する場合、原告がその主張を裏付ける十分な証拠を提供することが極めて重要です。
  • 特許の譲渡:逸失利益の損害賠償は、競合他社の侵害がなければ特許権者が得られたであろう利益であるため、親会社/子会社間の特許所有権は重要です。消費者に販売する企業に特許権を譲渡することで、逸失利益の直接的な理論を提供することができ、親会社と子会社の間で利益が「不可逆的に流れる」という理論への依存を完全に回避することができます。
  • ビジネス関係:親子会社は、逸失利益の損害賠償分析に特有の、会社間の様々なビジネス関係を考慮することもできます。例えば、ある企業から他の企業に在庫を売却した場合、在庫を購入した関連企業が最終的な顧客への売上を失ったにもかかわらず、売却した企業が後に逸失利益を請求することができなくなる可能性があります。

以上のことから、親会社/子会社の原告にとって、逸失利益の損害賠償を裏付ける証拠をすべて適時に開示することが極めて重要です。また、親会社/子会社の原告は、逸失利益の損害賠償の枠組みの中で、親会社と子会社の間のビジネス関係と特許所有権の取り決めを評価することも同様に重要です。

参考文献:Plaintiffs Beware – Disclose all Evidence of Lost Profits Damages During Discovery

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