逸失利益損害(lost profit damages)とは、被告が不正な行為を行わなければ原告が得たであろう追加利益を評価するものです。その損害は多彩で、売上高の減少、価格下落、経費の増加、企業の営業権や評判への傷害に関連する逸失利益など、様々な形態をとることがあります。また逸失利益損害は、将来にも及ぶ可能性があります。今回は、知的財産権に関連する紛争における逸失利益損害で重要になってくるポイントの概要を説明します。
逸失利益損害の算定には欠かせない Panduit Factors
知的財産権に関連する紛争における逸失利益損害の算定は、固有の案件の特性によって、比較的簡単なものから極めて複雑なものまで、様々なケースがあります。これまでに判例などで逸失利益損害の立証を支援するための様々な認識された枠組みが用いられ、Panduit Corp. v. Stahlin Bros. Fibre Works, Inc.で詳述されたものもそのような認められた基準の1つです。特に、この事件では、特許侵害の紛争において逸失利益損害を立証するために使用できる以下の4つの要素(「Panduit Factors」)が説明されています。
- 特許製品に対する需要 (Demand for the patented product;)
- 許容可能な非侵害代替品の不在 (Absence of acceptable non-infringing alternatives;)
- 需要を開拓するための製造およびマーケティング能力 (Manufacturing and marketing capability to exploit the demand; and)、および
- 侵害がなければ請求者が得たであろう利益の額 (The amount of profit that the claimant would have made absent the infringement)
したがって、上記のPanduitの枠組みでは、特許侵害紛争において逸失利益損害を立証するための適切な論点のすべてではないにしても、その多くは財務専門家証人 (financial expert witnesses) によって主張されることになります。実際、各Panduit Factorの分析には、他の証拠の中でも、ビジネス文書、財務、電子メール、証人の証言、会社関係者のインタビュー、他の技術、科学、その他の適格な専門家の意見などを引用した広範囲な議論が必要となることがあります。
専門家は必須、そして議論が起こることも理解する
一見単純なケースであっても、財務専門家証人が各Panduit Factorの下で下した結論に対して、しばしば異議申し立てがなされます。専門家の間で最も熱い議論が交わされる要因の一つは、許容可能な非侵害代替品が関連期間中に被告に利用可能であったかどうかということです。この要因は、技術的な理由と経済的な理由の両方を包含し、特定の紛争によっては、比較的広範な分析を伴うため、これはやや当然とも言えます。
一例を挙げると、マルチプレイヤー市場には、原告及び被告が提供する製品とあるレベルで競合する多数のサードパーティ製非侵害製品が存在する場合があります。さらに、適切にサポートされれば、非侵害の代替品は(実際に存在しない)理論的なものでさえあり得ます。しかし、そのような「代替案」が現実の世界で被告によって実施されなかった理由、及び/又はその顧客に受け入れられなかった理由(又は少なくともその全てではない理由)が技術的及び/又は経済的に存在する可能性があります。
理論ベースの議論で賠償金の定量化を進めるべき
全体として、逸失利益損害賠償請求の定量化には推定の要素が含まれることは一般に認められていますが、その分析は論理に根ざし、十分に推論されたものであることが必要です。各Pandiuit Factorの主要な論点と、より広範な逸失利益損害賠償請求に関する知識を得ることで、弁護士はより良い主張を裏付けるために、より完全な証拠記録を構築する機会を得ることができます。文書作成から訴訟提起、宣誓証言、鑑定、裁判まで、事件のあらゆる局面で、逸失利益損害の回復可能性(または回復不可能性)を裏付けるための管理が可能になってきます。
最後に、逸失利益損害賠償の救済は、知的財産訴訟に限ったことではありません。しかし、救済の形態は異なる訴訟タイプ間で同じでも、その救済を定量化するために調査される具体的な方法と証拠は異なる可能性があります。このようにIP訴訟は特殊なケースになる場合があるので、逸失利益損害賠償に関するチームには知財に特化した経験のある人を用いることをおすすめします。