特許訴訟の賠償請求で考えたい:「逸失利益は誰のものなのか」問題

特許権者はPanduit factorsをベースに特許侵害の際に逸失利益(lost profits)を回収することができます。しかし、親会社(Holding company)が特許を持ち、子会社が製品やサービスを販売しているような形態だと、逸失利益が難しいケースがあります。

逸失利益(lost profits)の回収条件と主体の問題

特許権者は、(1)特許製品の需要があり、(2)許容可能な非侵害代替品がなく、(3)特許権者には製品の需要を開拓する製造・販売能力があり、(4)特許権者が被告製品でなければ得られたはずの利益額を立証できる場合に、逸失利益(lost profits)を回収することができます。Mentor Graphics Corp. v. EVE-USA, Inc., 851 F.3d 1275, 1285 (Fed. Cir. 2017) この4つの要素はPanduit factorsと呼ばれます。この法的枠組みを考える上で前提になるのが、実際に特許製品で利益を得る主体がどこにあるかです。

ケース:Edgewell Personal Care Brands, LLC et al. v. Munchkin, Inc., 18-cv-3005 (C.D. CA Jul. 6, 2022) 

親会社−子会社の関係性と利益の流れが重要

今回の地裁ケースでは、被告 Munchkin, LLC (“Munchkin”) が、原告 Edgewell Personal Care Brands, LLC (“Edgewell”) は逸失利益を回収できないとして略式裁判を申請しました。Edgewellの逸失利益理論は、Edgewellの子会社であるEPCへの売上と、Munchkinの主張する侵害の結果、EPCが小売業者への販売で失った利益に基づいていた。裁判所は、「特許権者は、関連企業が失った利益を自らの損害として請求することはできない」と述べ、この理論は説得力がないと判断しました。

まれに親会社が「不可逆的フロー」理論(“inexorable flow” theory)に基づいて子会社の逸失利益を回収できる場合がありますが、今回はそうではありませんでした。不可逆的フローとは、利益が一方の企業から他方の企業に必然的に流れることを示すことで、関連する原告が一括して逸失利益損害を回復できるとする理論です。

連邦巡回控訴裁は、この理論に基づく損害賠償の可能性を否定していないことを認めながらも、「証拠は、EPCの利益がEdgewellに『不可避的に』流れることを示すものではない」として、Edgwellの試みを却下しました。裁判所は、上記のPanduitの要素に立ち返り、「EPCは被告から(製品を)購入したことがないため、EPCが被告の代わりにEdgewellから購入したであろう」という証拠もなかったと鋭く指摘しました。

Panduitの様々な要素を考慮する前に、一歩下がって、特許を所有する企業と実施品を販売する企業間の利益の流れを評価することが重要であることを教えたケースでした。

参考文献:Lost Profits – Who’s Sale is it Anyway?

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