明細書で既存の方法や技術を言及するだけにとどまり、技術的な詳細や予想外の結果を示さないと、訴訟の際に第101条の特許適格性の問題を引き起こす可能性があります。そのため、例え広く知られている方法や技術であったとしても、なるべく具体的な開示を明細書で行うようにしましょう。
判例:UNIVERSAL SECURE REGISTRY LLC v. APPLE INC.
Universal Secure Registry LLC(以下「USR」)は、AppleおよびVisaに対し、4件の特許の侵害を主張して訴訟を提起しました。これに対し、AppleおよびVisaは、第101条に基づいて請求を棄却すべきであると主張します。問題となっているUSRの4件の特許は、電子決済取引の安全性を確保することを目的としています。
審議の結果、連邦地裁はすべての特許が特許不適格な主題から構成されている(つまりAbstract ideaである)と判断しました。これを受け、USRは連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に控訴。CAFCは、各特許に対するアリスの2段階の調査を分析した結果、地裁の判決を支持しました。
分析の中で、CAFCは、認証技術に関する一連の事件を引用し、同裁判所は、ユーザー認証に関して、「特許適格性は、クレームがコンピュータ機能そのものの改良を構成するのに十分な具体性を提供しているかどうかにかかっていることが多い」と指摘。CAFCは、既知の技術の一般的な組み合わせで、付加的な機能向上が期待される場合、アリスに基づく議論を覆すには一般的に不十分であると述べています。
CAFCによると、USRの最初の特許は、「ユーザーと小売の間の取引を可能にする方法」に関するクレームを有しており、アリスのステップ1に該当しないとしています。ステップ2について、裁判所は、認証のために時間的に変化するコードを生成するという重要なステップが「従来からあるもの」であることを明細書が認めているとし、同様の認証スキームを利用するセキュリティベンダーから市販されている認証カードを使用していることを挙げました。
USRの第2の特許にも同様の欠陥がありました。CAFCは、本発明は、ユーザーの身元を認証するためにデータを収集して調査するという抽象的なアイデアに向けられたものであり、クレームは「一般的な方法による従来の行為」の集合体であると判断。CAFCは、特許が単に既知のセキュリティ技術の組み合わせを提案しているに過ぎず、各技術が提供するセキュリティの期待される合計以上のものを達成していないことから、アリスのステップ2を満たすのに十分な発明概念がないと判断しました。明細書では、市販の認証カードや小切手のバーコードなどの既知のセキュリティ技術が引用されていました。
同様に、USRの第3および第4の特許は、「取引を可能にするために2つのデバイスを使用してユーザーの身元を多要素認証する」という抽象的なアイデアに向けられたものであると認められました。両特許とも、CAFCは、既存の認証またはセキュリティアプリケーションに対する技術的解決策を提供するという点で、クレームに「具体性がない」と判断。一方の特許については、裁判所は、「バイオメトリック情報が生成される、または認証情報が送信される特定の技術的ソリューションの記述」がないことは、アリスに基づいてクレームを抽象化するのに十分であると判断しました。もう1つの特許については、具体的な技術的改善点を開示していないことと、「クレームされた発明は、従来の認証技術を組み合わせて、期待される累積的に高い認証の完全性を達成するに過ぎない」ことから、クレームは同様に抽象的であるとしています。
ソフトウェア特許の場合、抽象的思想(Abstract idea)と判断されないように、なるべく多くの具体的な開示を行う必要があります。今回の判決でCAFCが「特許適格性は、クレームがコンピュータ機能そのものの改良を構成するのに十分な具体性を提供しているかどうかにかかっていることが多い」と指摘していることから、この「具体性」がアメリカにおけるソフトウェア特許の特許性の鍵を握っていることが改めて示されました。
参考文献:Lack of Specificity in the Specification Creates Patent Eligibility Issues