特許訴訟で訴えられたときに、共通する特許で訴えられた企業同士が共同弁護契約を結ぶことがあります。訴訟における機密文書の取り扱いには厳しい保護命令が行われますが、共同弁護契約に基づき被告人同士が情報を共有できるようになります。しかし、今回、一方の被告人が保護命令を超える形で機密文書を使用したため、もう一方の被告人の弁護士が保護命令違反で疑われました。
訴訟時における機密文書の取り扱いは厳密に管理されていた
Static Media社は、ウィスコンシン州でLeader社を特許侵害で訴え、当事者は訴訟手続きの過程で、機密文書の共有範囲と使用を管理するための保護命令(protective order)を締結しました。その関連部分では、文書は「この訴訟手続の提案のためにのみ使用されるものとする」と記載されていました。
機密文書へのアクセスは、コンサルティング、技術、専門的なサービスを提供するために雇われた外部の個人を含む、特定のグループに限定され、機密文書へのアクセスを許された関係者は命令の条件を遵守するための「保証書」(Written Assurance)に署名することになっていました。
第二の訴訟をきっかけに共同弁護契約が結ばれ、被告同士が情報共有を始める
Static Mediaはその後、フロリダ州でOJ Commerceを特許侵害で訴え、Leaderとの共同訴訟と同じ特許を主張しました。両被告(LeaderとOJ Commerce)は共同弁護契約(joint defense agreement)を締結し、侵害の問題や弁護の可能性について互いに協議しました。その中で中核の弁護士であるLee氏は、OJ Commerceの弁護士であるHecht氏に保護命令の保証書を署名させ、Hecht氏と機密文書の共有を開始しました。
Lee弁護士は、機密文書を共有するたびに、その文書が保護命令の対象であることをHecht氏に伝え、保護命令を遵守するよう求めました。しかし、Hecht氏はその後、フロリダでの訴訟の和解交渉で機密文書として特定されていた情報を使用し、そのような機密情報を使用したことを相手側のStatic社に報告しました。Staticは、もう一方の訴訟の相手であるLeader社とその弁護士のLee氏が保護命令に違反したとして、ウィスコンシン州訴訟において証拠開示の制裁を申し立てました。連邦地裁はこれに同意し、金銭的制裁を命じました。この地裁の判決は控訴され、CAFCで審議されました。
予防対策によって制裁は不適切であったと判決が覆される
控訴審議の結果、CAFCは連邦地裁の命令を覆し、証拠開示の制裁は適切ではなかったとしました。その理由は証拠不十分というもので、Hecht氏がフロリダ州の訴訟で機密情報を使用することを情報を共有したLee氏が知っていた、あるいは知るべきであったという結論には明確かつ説得力のある証拠による裏付けがないというものでした。
CAFCは、「Lee氏は、Hecht氏が保護命令を遵守することを保証するために必要なことを正確に行った」と述べ、まず、Hecht氏による保証書の締結と、Lee氏が開示ごとに提供した注意喚起に注目しました。このような情報管理を行っていたということで、Hecht氏がフロリダ州の訴訟において不適切な開示を行ったという事実は、共同弁護契約を結んでいたLeader社とLee氏に帰属すべきではないという見解に至りました。
次に、CAFCは、Lee氏がHecht氏に対して行った開示が、ウィスコンシン州での訴訟の目的 「のみ」の使用に関する保護命令の制限に違反しないと判断しました。CAFCは、保護命令を、命令に拘束される個人間での機密情報の使用は認めるが、それ以外の第三者への開示のみを禁止するものであるという解釈に理解を示し、共同防衛戦略の作戦のためにLee氏がおこなった開示が、保護命令に違反していたかについては、「公正な疑いの根拠」(“fair ground of doubt”)があると判断。よって、このような証拠不備で疑いが残るような状況において、証拠開示の制裁である侮辱命令(contempt order)は不適切であったとしました。
第三者の保護命令違反で被害を被らないための3つのポイント
今回の判例から、共同係属中の訴訟において第三者が機密情報を使用した場合であっても、第三者が (1) 命令に拘束されることに同意し、(2) 命令に基づく義務を再確認し、(3) 共同防衛協定に基づき開示がなされた場合、第三者の保護命令違反の責任を当事者が被る可能性は少なくなったと言えるでしょう。
参考文献:Disclosures Under Joint Defense Agreement Were Not A Protective Order Violation