2021年もITCへの関心度が高まる年となったことが統計データから判明

数年前までは特許侵害の案件でITCを使うケースは稀でしたが、2020年は新規の申立が57件、2021年も50件以上の新たな申立があり、関心度が高まりつつあります。また、手続き上の利点から年末に申立が行われることもあるので、年末年始はITCの動向に気をつけたい時期でもあります。

ITCにおける337条調査はほぼ特許侵害訴訟

ITC はワシントン DC にある連邦行政機関であり、合衆国法律集第 19 編第 1337 条(「337 条」)に基づき、 米国への物品の輸入における不公正行為や不正競争を調査して対処する幅広い権限を有しています。第 337 条の調査のほとんどは特許侵害の問題を扱うのですが、第 337 条の調査では、他の法定知的財産 (商標、著作権など)の侵害や、企業秘密の不正流用、虚偽広告、契約違反、反トラスト違反などの他の不公 正行為も扱うことができます。

米国地方裁判所での訴訟と比較すると、ITCで特許侵害訴訟を行うことは、特許権者にとって、法定要件による本案訴訟の早期解決、無関係な侵害者を1つの案件にまとめることができること、反訴の可能性が限られていること、上訴で結果が覆る可能性が低いこと、侵害品の米国への持ち込みを禁止する排除命令という強力な救済措置など、地裁とはまた違った特徴を持っています。

2021年もITCは多忙な1年だった

このように特許権者のためのフォーラムとしてとても魅力的ですが、ITCが受ける訴えの数は米国地方裁判所と比較して限られています。これは主に、特許権者は、侵害の証明に加えて、(a)侵害に関連する物品の輸入と(b)特許を実施する物品に関する「国内産業」の存在を示さなければならないという管轄要件によるものです。そのためか、過去10年間、ITCへの新たな訴えは年平均50件未満でした。

しかし、今傾向が変わりつつあります。2020年は新規の申立が57件、付帯手続き(ancillary proceedings)の申立が10件と、ITCは多忙な1年となりました。このペースは2021年も続き、50件以上の新たな申立と19件の付帯手続きのための申立があり、11月と12月には14件の申立で最高潮に達しました。

なぜ年末に新規のITCのへの申立が増えるのか?

実は年末に新規のITCへの申立を提出することは、申立人に戦術的な利点をもたらします。

ITCの手続き規則では、被申立人はITCが調査を開始してから20日以内に申立に対する詳細な返答を提出しなければならないと規定されています。19 CFR § 210.13。しかし、アメリカでは11月の末に感謝祭の休みがあり12月はクリスマス、年末ということもあって、休暇を取る人が増えます。

なので、11月や12月に訴えられると、被申立人が回答準備のために使える時間が必然的に限られてしまいます。そのため回答者が十分な調査準備ができなくなるか、計画していた休暇をキャンセルしなければいけないということになります。

ITCにおける337条調査の将来

知財の権利者にとって、ITCが提供する迅速、確実、正確な知的財産紛争の解決はとても魅力的です。多くの知財所有者は、侵害輸入品との競争激化に直面し、市場での地位を維持・拡大する方法を模索しています。2021年に提出される新しい申し立てのペースも好調なところから、ITCは知的財産権を利用して市場シェアを守ろうとする知財所有者にとって、今後も重要なツールであり続けることが予想されます。

参考文献:Once Again, the ITC Finishes the Year with a Flurry of New Complaints

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