ITC訴訟と平行して行うPTAB手続きを成功させるためのポイント

ITC第337条調査(ITCにおける特許侵害訴訟)が並行して行われているタイミングで、特許審判部(PTAB)が当事者間レビュー(IPR)または付与後レビュー(PGR)の申立てを検討する場合、35 U.S.C. § 314(a)および324(a)に基づいて審査開始を拒否する裁量権を行使することがとても高いです。そのため、ITCと平行してIPRやPGRを検討している場合、PTABでの裁量的な拒絶を避けるためのいくつかのポイントを教えます。

1.PTAB請願書を先取りして提出する

ITCの調査が開始される前にIPRまたはPGRの申立てを行うことをおすすめします。ITC第337条調査は独特の迅速かつコンパクトな手続きなので、ITC調査がすでに始まってしまうと、並行する特許の付与後手続きの開始を拒否するために、PTABがその裁量権を行使することに有利に働いてしまいます。

ITCの調査を効果的に先取りし、裁量権による拒否を回避するために、ITCで被告側になる可能性の高い会社は、競合他社の特許および訴訟活動を日常的に監視し、ITCの調査が行われる可能性が高い、または差し迫っていると思われる場合には、速やかにPTABに申立書を提出するべきでしょう。

2.PTAB申立書の提出を別の当事者に依頼する

裁量権を行使して審査開始を拒否するかどうかを決定する際に、審査会は、PTABの判例である2020年のApple Inc.対Fintiv, Inc.の判決にある「Fintiv要因」を考慮します。

第5のFintiv要因は、並行手続の申立人と被告が同じ当事者であるかどうかを問うもので、当事者の同一性は審査開始を拒否することに有利に働きます。PTABでIPRまたはPGRの申立てを行うにはStanding要件(誰が手続きを申し込めるかという条件)がなく、また、ITCは輸入品に対して限定的なin rem管轄権を有しているため、ITC手続で被告として指名された会社と異なる当事者がPTABにおける申立てを行うことで、裁量的拒否を避けることができるかもしれません。

ただし、申立人は申立書の中で真の利害関係者を特定しなければならないことに注意する必要があります。したがって、PTAB申立人は、ITCの被申立人が指示やコントロールを持たない当事者でなければいけないことに注意するべきでしょう。

3.異なる請求項または異なる特許について申立書を提出する

4つ目のFintiv要素は、PTAB申立書と並行手続で提起された問題の重複を考慮します。重複が多いと却下されやすくなり、重複が少ない審査開始の確率が高まります。

申立人が(同じ特許を検討する場合でも)問題の重複を少なくする方法の1つは、ITCで原告が主張した請求項とは異なる請求項に挑戦する申立書を提出することです。また、別の特許にチャレンジするという方法もあります。

例えば、ITC の申立人は、申立に適した複数の特許を含む特許ポートフォリオを持っているかもしれません。少なくとも、申立人は、特許所有者/原告が所有する他の特許に異議を申し立てることの戦略的な意味を検討することがいいかもしれません。例えば、特許所有者/原告は、複数の同時係属中の手続きに対応するために、ITC問題からリソースを流用することを余儀なくされます。このようにすることで、和解交渉において申立人が戦略的に優位に立つことができます。

4.異なる論点を主張することを合意する

申立人は、並行手続においてPTABとは異なる論点を主張することを規定することにより、Fintivの第4の要因を回避することができます。

例えば、並行して行われるITC調査の争点がPTAB請願の争点と重ならないことを示すために、被申立人は各手続で異なる理由を追求することを規定し、PTAB手続をITC調査の代替とすることができます。

訴状提出者は、このアプローチを利用してPTABでの裁量的な拒否を回避することに成功しています。例えば、Sotera Wireless, Inc. v. Masimo Corporation, (IPR2020-01019)では、PTABは、申立人が「IPRで提起された、または提起され得た特定の理由(inter partes reviewで主張された)、またはその他の理由(IPRで提起された、または合理的に提起され得た)を(地方裁判所で)追求しない」という宣誓書を地方裁判所に提出したという事実に依拠しましたが、他の申立人も同様に宣誓した結果、PTAB手続が開始されました。

これらに加え、先月末に提出された特許法の改正案が可決され法律になれば、変化があるかもしれません。特に、本法案では、IPRやPGRの実施を拒否するPTABの裁量権を大幅に制限する項目も含まれています。

ITC調査の手続きはとても早く、そのためIPRやPGRを行おうとしてもPTABがその裁量権を行使して審査開始を否定する可能性がとても高いです。しかし、今回紹介したような4つのポイントを活用すれば、ITC訴訟と平行してPTAB手続きを成功させることができるかもしれません。

参考文献:ITC Section 337: Tips for Avoiding Discretionary Denials at the PTAB

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