ITCにおける命令は非常に強力で強制力があります。そのため、いかなる状況であってもITC命令に従わなかった場合、非常に厳しい罰金を課されることがあります。それはたとえ対象となった特許が後に無効になっても、その前に課された罰金が「チャラ」になる保証はないので、ITCと並行してIPRなどの特許無効化手続きを行っている場合は注意してください。
判例:DBN Holding, Inc. v. International Trade Commission, No. 2020-2342 (March 1, 2022)
ITCの注目度と命令違反のリスク
強力な排除命令(exclusion order)の脅威があるため、国際貿易委員会(ITC)は、不正競争に対抗するために多くの特許権利者によって利用されています。そして、このITCの手続きにおいて、様々な理由により、排除命令の可能性に直面する当事者は、米国への被告製品の輸入を控えることに自ら同意する場合があります。このような行為は、たとえ申立人の申し立てに対し信頼できる抗弁がある場合でも行われることがあり、そのような輸入を控えるものを文面化した同意命令(consent order)というものを出します。
同意命令は自発的に出されるとはいえ、ITCの命令であり、その違反は厳しい金銭的民事罰の対象になる場合があります。連邦巡回控訴裁(CAFC)は、最近の意見で、問題となった知的財産(IP)権が無効とされたために基本的な命令(underlying order)が取り消された場合であっても、民事罰(civil penalty)の取り消しを拒否することによって、ITCが命令違反を抑止する能力を有することを確認しました。
ITCによる337条調査における罰金と別途で行える特許無効化の手続き
19 U.S.C. § 1337に基づき権限を与えられたITCが行う「337条」調査(“Section 337” investigations)は、知的財産権に関わる主張を調査することが多いです。ITCは、侵害製品の輸入と販売を禁止する排除命令(exclusion orders)、同意命令(consent orders)、及び停止命令(cease and desist orders)を出すことによって不公正競争を是正することができます。そして、もしそのような命令に従わない場合、多額のそして継続的な罰金を科される可能性があります。
337条調査において特許侵害で訴えられた被告は、ITCでの弁護に加えて、連邦地裁や米国特許商標庁での付与後異議申し立てなど、特許の有効性に異議を唱える手段を持ち、しばしばそれらの手続きを活用し異議を追及します。そして、ITC調査の結果を否定するために、その後に得られた特許無効の判決に頼りたくなるのは十分理解できます。
特許が無効化されたからと言って過去の罰金が免除されるとは限らない
しかし、DBN Holding, Inc. v. International Trade Commission, No. 2020-2342 (March 1, 2022) において、CAFCは、ITCにおける命令後に下された特許無効の判決の取り扱いとすでに命じられている罰金についての取り扱いに警鐘を鳴らしています。というのも、ITCは、事実または法律の条件の変化に基づき、同意命令(consent orders)を含む命令を取り消すことができるが、当該命令に違反したために科された過去の罰金を取り消す必要はない、としたからです。
本案件で、DeLorme Publishing Co. は、米国特許第 7,991,380 号(’380 特許)のいくつかの請求項の侵害の疑いに基づく ITC 調査を解決するために、双方向グローバル衛星通信デバイス、システム、コンポーネントの輸入を禁止する同意命令(consent order)に同意ました。 ITC rule 210.21(c) が要求するように、同意命令は、「期限切れとなった、または[ITC]や管轄の裁判所や機関によって無効または執行不能と判断された、いかなる知的財産権の請求に関しても適用しない」ことが明示されており、その判決が確定して再審査不可能(final and non-reviewable)となった場合にのみ適用されます。
その後、‘380特許のクレームは、バージニア州東部地区によって無効とされ、CAFCはその判決を支持しました。
しかし、無効となる前に、ITCは、同意命令に違反したとしてDeLormeに約620万ドルの民事罰を課し、CAFCもこれを支持しました 。後の控訴に対応して、CAFCはITCに対して、民事罰を修正するか取り消すかを19 C.F.R. § 210.76 に基づいて再送で評価するよう指示しました 。
CAFCは、ITCが rule 210.76の下で裁量の範囲内で行動し、取消しまたは修正を認めた少数の先行事例を適切に区別したと判断。さらに、CAFCは、ITCがCertain Erasable Programmable Read Only Memories(EPROMsとしても知られる) で規定された要因を適切に評価したとしました。注目すべきは、CAFCが「違反行為に民事罰を科すことによって命令違反を抑止することは公共の利益にかなうと主張したITCに明確に同意する」 と明記した点です。
まとめ
CAFCは、DeLormeの罰金を取り消すことを拒否したITCの決定を覆さないことによって、対象となっている知財が正式に無効とされない限り、そのような発表が正式にされるまで、すべてのITCによる命令を遵守することが賢明であるという明確なメッセージを送っています。
これはいくらIPRなどの手続きの過程から特許が無効である確立が高い状態であっても変わりません。なので、特許が無効と正式に決まる前にITC命令に違反するような行為はせず、適切な手続きを経て、ITCによる明確な命令の破棄・変更が示された後に、許される範囲においての輸入活動を行うべきでしょう。