差し止めで重要になってくる回復不能な損害(irreparable harm)を示すにあたり、侵害品の販売による消費者の混乱を主張するのは良い手段かもしれません。特に、デザイン特許のような見た目で判断がつくものであれば、今後、そのような主張により侵害品の取締ができる可能性が高くなるかもしれません。
ケース:Peng v. The Partnerships and Unincorporated Assocs. Identified on Schedule “A”, No. 21 C 1344, Slip Op. (N.D. Ill. Sep. 14, 2021) (Dow, J.).
デザイン特許訴訟で仮差し止めを認める
地方裁判所は、ワイヤレスイヤホンヘッドバンドに関するこのデザイン特許紛争において、すでに出され た一時的差止命令(TRO:Temporary Restraining Order)を、仮差止命令(PI:Preliminary Injunction)に変更しました。
仮差し止め手続きは、訴訟の早い段階で行われ、原告が特許侵害の証明に成功する可能性を示し、特定の条件を満たした場合に許可されます。しかし、最高裁の eBay 判決により、侵害証明が可能とされるような証拠を早期に提示しても、それ自体が差し止めの要件の1つとなる回復不能な損害(irreparable harm)を被るという推定には至らないこともあります。
侵害品の販売による消費者の混同の可能性が有効的な主張として認められた
この回復不能な損害は、差し止めにおける重要な要素なのですが、今回のケースでは、消費者の混乱を理由に回復不能な損害が認められました。具体的には、原告は、被告が侵害品を販売することにより、消費者が純正部品と混同し、原告の評判に損害を与える可能性があるとして、回復不能な損害を示した。
アメリカ国外の被告であったことも差し止めのプラス要素
また、原告は、被告が中国に居住しているため、いかなる金銭的判決も回収できない可能性が高いという問題を提起しました。原告が訴訟を提起し、差止命令を求めるまで6ヶ月の遅れが発生したようなのですが、侵害を発見してから訴訟を起こすまでの6ヶ月の間、原告はアマゾンの特許紛争解決プログラムを利用しました。そのため仮処分による救済を妨げるものではなかったと判断されたようです。この原告は、Amazonの訴訟を開始してからわずか数ヶ月後に本訴訟を提起し、TROを求め、その後すぐにTROをPIに変更しました。
被告製品は、クレームされたヘッドバンドのデザインのすべての設計要素を備えていなかったようですが、全体の外観は、「普通の観察者が原告の製品であると信じて被告製品を購入するように誘導され得る」ほど、クレームされたデザインと十分に類似していたようです。
当事者間の主張のバランスで差し止めは判断される
また、判事は、被告が主張する先行技術が、実際に原告の意匠特許の先行技術であることを十分に証明しなかったと指摘。その上で、市場における類似製品に対する顧客の混乱という観点から特許権者の損害を定量化することは困難であるため、損害のバランスは原告に有利に傾いたと判断しました。その結果、裁判所は、原告の訴えを認め、デザイン特許を侵害していると思われる被告のワイヤレスイヤホンヘッドバンドの仮差止命令(PI:Preliminary Injunction)を行いました。
アマゾンなどのEコマースにおける取締に活用できるかも
今回のケースでは、侵害品はアマゾンで販売されていたようです。アマゾンは自前の特許紛争解決プログラムがありますが、それと併用して、今回のように地裁における訴訟も検討する価値がありそうです。
特に、デザイン特許は一般的な特許(Utility Patent)よりも取得しやすく、見た目で侵害判断がある程度できるので、見た目が重要な製品に関しては積極的にデザイン特許を取得し、アマゾンなどのEコマースにおける模倣品の取締に活用するといいのかもしれません。
参考文献:Irreparable Harm Shown by Likely Consumer Confusion From Sales of Likely Infringing Product