IPRにおける専門家は最低でも定義された当事者を満たす必要がある

自明性について意見を述べる専門家は、少なくとも通常の当事者(person of ordinary skill in the art (“POSA”))の定義を満たさなければならないことが、当事者間審査(IPR)の決定で示されました。また、専門家の証言は文献を組み合わせる動機を示す独立したものであるべきで、結論めいた発言ではなく、証拠によって裏付けられる必要があります。

判例:BEST MEDICAL INTERNATIONAL, INC. v. ELEKTA INC.

今回問題になった特許は、遠隔地にいる医師が手術の様子を見たり、ビデオ会議を通じて手術現場のスタッフに指示や指導を行うことを可能にするテレプレゼンス・システムに関するものでした。テレプレゼンスシステムは、伸縮や回転が可能なアーム(ブーム)にオーバーヘッドカメラを取り付けたカートを含んでいます。これにより、オーバーヘッドカメラは、患者や手術手順の望ましいビューを提供するために、無菌手術野の内側を含む様々な位置に配置することができます。申立人は、複数の先行技術の組み合わせから見て、特許請求の範囲が自明であったと主張し、当事者間審査(inter partes review)の申立てを行いました。

当事者(person of ordinary skill in the art (“POSA”))の定義と専門家のスキルと経験

IPRを行うか否かの判断において、審査会は、予備的事項として、申立人の専門家が当業者の観点から証言するのに必要な技術レベルを有しているかどうかが検討されました。審査会は、申立人が提唱した当業者の定義は、「遠隔医療に使用されるような遠隔会議システムの設計またはエンジニアリングにおいて少なくとも2年の研究または実務経験」を必要とするものであると判断しました。

当業者はさらに、申立人の専門家は電気工学の上級学位を有していたものの、遠隔会議システムの研究またはエンジニアリングの具体的な経験がなかったと判断しました。この結論に至るにあたり、当業者は、専門家の「遠隔会議に関する多くの経験」と「遠隔医療機器のデザインレビュー」を行ったという曖昧な言及は、当業者として立証するには不十分であると判断しました。従って、審査会は、当業者が先行技術から何を得たかを含む、通常の当業者のレンズを通して分析した問題についても、申立人の専門家の証言を重く見て考慮ことはありませんでした。

専門家の証言は文献を組み合わせる動機を示す独立したものであるべき

しかしながら、審査会は、仮に申立人の専門家が当業者であったとしても、彼の証言は申立書の内容「そのもの」であり、どちらもクレームされたテレプレゼンスシステムに到達するために主張された文献を組み合わせる動機について十分に説明していない、と判断しています。したがって、審査会は、当業者が先行技術に開示された移動ロボットを修正し、調整可能なブームによってロボットに取り付けられたカメラを含むようにした理由を、申立人が立証できなかったと判断しました。

審査会によれば、申立人は、先行技術のロボットにカメラを取り付けると、ステアリングとバランスが複雑になり、移動ロボットが転倒したり、患者などの物体に接触する可能性があるという特許権者の主張に対して、反論することができませんでした。審査会は、申立書の欠陥は決定的であると判断し、IPRの開始を断念しました。

専門家の選定は慎重に

PTABでの弁論を含め、当業者の視点から意見を述べる専門家に頼る場合、選ばれた専門家が少なくとも当業者の定義に合致していることを確認することが重要であり、それは結論めいた発言ではなく、証拠によって裏付けられる必要があります。

参考記事:IPR Petition Denied Due to Expert’s Lack of Relevant Experience

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