CAFCがIPR中に訴願人がEstoppelに関わる主張を「合理的に提起できた」ため、IPRで生き残ったクレームに関する同じ先行技術文献を用いた有効性の判断を改めて裁判所で行うことはできないとしました。今回はPartial institutionが許されていたSAS判決の前のケースですが、特許訴訟にはIPRが関係することが多いので、IPRで審査されなかったクレームに関しては注意するべきでしょう。
訴訟とIPRの経緯:1つのクレームがIPRで審議されずに残る
Click-to-Call(訴訟の原告/特許権者)は、Ingenio(訴訟の被告/IPRの訴願人)等を被告として侵害訴訟を提起しました。その後、Ingeniは主張されたクレームに対してIPRを申請、そのIPR申請においてIngeniは、DezonnoリファレンスおよびFreemanリファレンスに基づく複数の根拠を主張しました。
PTABは、Dezonnoリファレンスについては部分的にIPRが開始され(Partial institutionがまだ有効だったとき、現在はIPRのInstitutionはall or nothingです)しましたが、FreemanリファレンスについてはIPRの開始を拒否しました。特に、クレーム27は、Freemanリファレンスにのみ異議が唱えられていました。
連邦地裁の訴訟は、PTABにおけるIPR審議が終わるまで延期され、PTABはDezonnoリファレンスで争われた全てのクレームを特許不成立としましたが、この決定にはクレーム27は含まれていませんでした。全ての控訴を経て、このPTABにおける決定は最終となった。
係争中にPartial institutionが無効になる
控訴期間中に、最高裁は、SAS Institute, Inc. v. Iancu, 138 S. Ct. 1348 (2018)を決定し、裁判所は、IPRの部分的開始(Partial institution)を無効としました。SAS判決後、控訴審が決定される前に、訴訟の被告/IPRの訴願人のIngenioは、IPRで審査されていないクレームが存在することに関して検討するためにSASに基づく審議の手続きを求めませんでした。そのため、従属請求項27はIPRを終えても存続することになりました。
残されたクレームは権利行使できるのか?
連邦地裁は、IPR手続が終了した時点で本件に関する審議を再開。そこで、訴訟の被告/IPRの訴願人であるIngenioは、クレーム27はDezonnoリファレンスに基づいて無効であると主張して、略式判決を申請しました。訴訟の原告/特許権者であるClick-to-Callは、IPR禁反言法315条(e)(2)(Estoppel)に基づき、被告はこの無効理由を追求することを禁じられると主張しました。連邦地裁は原告の主張を退け、Dezonnoリファレンスがクレーム27を予見していたとして略式裁判を認めました。CAFCは、PTABがSAS判決以前の状態、つまり一部の理由でIPR審査を始めていた場合、315(e)(2)の適用を検討する必要があるとして、再審査をおこないました。
CAFCは、標準的な争点排除( issue preclusion)ではなく、315(e)(2)が問題であり、§ 315(e)(2)に基づき、IPR中に訴願人がその主張を「合理的に提起できた」ため、連邦地裁が IPR禁反言(IPR estoppel))に基づきクレーム27の略式判決を下したことは誤りであると指摘しました。IPR禁反言はクレームごとに適用され、最終的な書面決定の対象となったクレームにのみ限定されるという被告の主張は、通用しませんでした。
CAFCは、クレーム27は申立ての一部であり、その申立てが最終的な書面決定の対象となったため、申立人がそのクレームに対してDezonnoリファレンスを提起できなかったという合理的な議論は存在しない、と述べています。
また、CAFCは、最終書面決定においてクレーム27を含めなかったことは、SASによって正された法的な誤りであり、IPR禁反言の発動から訴願者を免除するものではない、と述べました。これらの事実に基づき、CAFCは、連邦地裁がクレーム27にIPR禁反言を適用しなかったのは誤りであ るとし、逆転判決を下しました。
定期的なアップデートを
PTABにおける手続きは継続的に変化しています。新しい判決の結果は見過ごされがちであるため、実務家は、新しい判決が係争中の事件に与える影響を定期的に検討する必要があります。