特許の権利を譲渡する場合、その意思が明確に譲渡書に示されている必要があります。その発明者の「意思」を明確にするために、譲渡書では、適切な表現による権利の譲渡を行い、単に将来的に特許を譲渡することを約束するだけと解釈されるような表現は避け、「will assign」、「agrees to grant」、「does hereby grant title to the patent」など、将来の権利の現在の自動譲渡を構成すると以前から認められている現在形の実行語を使用することをおすすめします。
判例:Omni Medsci, Inc. v. Apple Inc.,
米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)はこのほど、知的財産権(IP)を譲渡する契約書に正確な表現を用いることの重要性を示しました。この判決は、Omni Medsci, Inc. v. Apple Inc.において、Omni MedSci社(以下「Omni社」)がApple社に対して行った特許侵害訴訟を、Apple社が原告適格を欠くこと(lack of standing)を理由に却下することを連邦地裁が認めなかったという決定を支持したものです。
Omni社は、Omni社の創業者であるMohammad Islam博士が発明者である特定の特許の特許侵害を理由にApple社を訴えていました。イスラム博士は、Omni社の創業者であると同時に、ミシガン大学(以下、UM)に在籍していました。Apple社の主張の根拠は、Omni社が主張している特許は、イスラム博士がUMに譲渡したものであり、Omni社は所有していないというものでした。
1992年にUMに採用されたイスラム博士は、UMのby lawを遵守することを含む雇用契約を締結しました。このby lawでは、UMのスタッフが行った管理、研究、その他の教育活動の結果として、あるいはUMの資源や施設の使用に関連して発行された特許は、「大学の財産とする」と規定されていました。
2012年、イスラム博士はUMを無給で休職し、その間に複数の特許出願を行いました。その後、これらの特許を、イスラム博士がこれらの発明を利用する目的で設立した会社であるOmniに譲渡しました。
その後2018年、Omni社はApple社に対して特許侵害訴訟を提起しました。Appleは、Omni社が原告適格を欠く(lack of standing)と主張して訴状の棄却を申し立てます。Appleは、Islam博士のUMとの雇用契約とUMのby lawにより、特許の法的所有権が自動的にUMに移転し、Omniではなく大学が特許の真の所有者となると主張しました。
しかし、CAFCの多数派はこれに同意せず、連邦地裁がAppleの棄却申し立てを却下したことを支持しました。
多数派の意見を述べたリン判事は、「特許譲渡条項(patent assignment clause)は、発行予定の特許を現在自動的に譲渡することができ、その場合、譲渡を有効にするための更なる行為は必要ないが、単に将来的に特許を譲渡することを約束するだけの場合もある」と指摘した。後者のタイプの条項は、それだけでは特許権の移転を有効にするのに十分ではない(つまり、将来的にさらなる合意が必要となる)と述べました。
裁判所は、by lawの該当部分が現在の自動譲渡を構成するものではないと判断した。むしろ、「大学の財産とする」という文言は、将来の譲渡の可能性を約束しているに過ぎないとしました。裁判所は、特許権の重要性を考慮して、「発明者は、雇用者が発明の権利を得るためには、明示的にその権利を雇用者に付与しなければならない」と強調。リン判事は、UMのby lawには、「will assign」、「agrees to grant」、「does hereby grant title to the patent」など、将来の権利の現在の自動譲渡を構成すると以前から認められている現在形の実行語が使用されていないことを指摘しました。Appleは by law の文言を無視することは、当事者の意図を特定するという本質よりも、「マジックワード」に焦点を当てることになると主張しました。しかし、裁判所はこの主張を退けました。
判決を下すにあたり、裁判所は契約解釈の原則を採用しました。これには、UMの他の文書で使用されている現在の自動譲渡に関する曖昧さのない言葉とby lawを対比させることが含まれます。「必要に応じて、私/私たちはここに、この発明とその結果としてのすべての特許に関する権利を譲渡します…」(“As required, I/we hereby assign our rights in this invention and all resulting patents…”.)。
教訓
この判決は、IP譲渡条項を慎重に作成することの重要性を改めて示しています。“shall be the property of” という文言は、知的財産権を譲渡するための非常に一般的な表現であり、知的財産権譲渡条項を持つ多くの商業契約や技術契約に見られます。しかし、これらの条項は、紛争が発生した場合、裁判所がこの文言では問題となっている知的財産権の所有権を実際に移転するには不十分であると判断する可能性があることを知っておくべきでしょう。
そこで、(i) この条項の効果(すなわち、所有権の移転)の重要性や、(ii) 発明家個人と雇用者の間のパワーバランスの格差などから、裁判所は、知的財産権の有効な譲渡が行われたと判断するために、文法的な正確さ(明示的な譲渡の「マジックワード」のようなものを含む)を要求する可能性があると思われます。