地裁のindefiniteness判決がIPRの却下につながる

PTABは、Samsung Electronics Co.Ltd., v. Acorn Semi, LLC, IPR2020-01182 (2021年2月10日)において、連邦地裁が異議申立請求されていたクレームを不明確(indefinite)と判断したことに基づいて、当事者間レビュー(IPR)を拒否するという裁量権を行使しました。

IPRは特許訴訟に対応策として用いられることが多い

2020年6月24日、Samsungは、金属-半導体接合に関するAcorn Semi LLCの特許第7,084,423号(以下、「’423特許」)の請求項62~64、および65に異議を唱えるIPRを出願しました。この423特許は、係属中の連邦地裁訴訟であるAcorn Semi, LLC v. Samsung Electronics Co. Ltd., No.2:19-cv-347(E.D.Tex.2019)で権利行使されていました。

地裁におけるクレーム解釈でIPRを提出されたクレームが不明確(indefinite)に

地裁訴訟では、2020年10月16日に下級判事(magistrate judge)が、請求項62の用語が不明確(indefinite)であることを認めるクレーム解釈(claim construction)を出していました。裁判で争われていたすべてのクレームは、直接的または間接的に請求項62に依存していました。

2020年12月10日、地裁判事は、不明確判断を含む、下級判事のクレーム解釈の提案を全面的に採用する命令を出しました。その結果、連邦地裁の判決では、裁判で争われた請求項のすべてが不明確となりました。

IPRを行うか・行わないか

このような地裁の背景を受けPre-briefingにおいて、PTABがIPRを行うかべきか否かが議論されました。その結果PTABは、35 U.S.C. § 314(a)に基づく裁量を行使して、当事者間レビューの実施を拒否しました。

連邦地裁の indefiniteeness の判決は、PTAB が単純に回避することはできませんでした。特に、PTABにおける解釈と裁判所における解釈に違いが起こることが懸念されていました。今回の判断に至るにあたって、1)Samsungが、連邦地裁の判断が間違っていることを主張したり、別の結論を提示していなかったこと(Samusungにとっては地裁で権利行使されていた特許が不明確という結論に至ったこと自体は有利なことなので)、また2)Samsung は、不明確性に関する判決と、同じ語句を含む非特許性に関する議論をどのように調和させるかについても主張していなかったことの2点を重く見て、Samsungは不明確性の議論と一貫して、問題となっている限定をどのように扱うことができるかに何の説明もしていなかったとし、PTABは自身の裁量権を行使し、IPRを行わないことを決断しました。

このように、同時係属中の地方裁判所の訴訟による不確定性の判決は、35 U.S.C. § 314(a)の下でのPTABの裁量的な拒絶に有利に働く可能性があります。

参考文献:”District Court Indefiniteness Ruling Leads to Denial” by Matthew W. Johnson and Sachin Patel. Jones Day

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

conference
AI
野口 剛史

USPTOがAI発明の特許性に関する公聴会を開催

米国特許庁は、特許に関連するAI技術の現状と関連する発明者の問題についてステークホルダーからの意見を求める2つの公開ヒアリングを開催しています。これらのヒアリングは、Thaler v. Vidal事件での連邦巡回控訴裁判所の判決に続いて行われています。この判決は、AIシステムを特許発明者として名前を挙げる請願を却下する決定を支持しましたが、AIの支援を受けた人間による発明が特許保護の対象となるかどうかについては取り上げませんでした。2023年2月14日の告知では、AIが発明創造における役割や特許の対象性についての質問が提示されており、公聴会ではこれらの質問に関する一般の意見が示されることが予想されます。

Read More »
contract-signing
再審査
野口 剛史

NDAにおけるフォーラムセレクション条項にはIPRを起こす権利を喪失させる可能性あり

2月8日、米連邦巡回控訴裁(CAFC)は、秘密保持契約(以下、NDA)のフォーラム選択条項(forum selection clause)により、当事者が米国特許商標庁(以下、USPTO)で特許の有効性に異議を申し立てる当事者間審査(以下、IPR)の申立てを行う権利が喪失したという判決を下しました。

Read More »
訴訟
野口 剛史

用語の解釈では明細書内における記載が辞書よりも優先されるべき(前例変わらず)

米国連邦巡回控訴裁(CAFC)は、クレーム解釈における内在的記録(intrinsic record)と外在的記録 (extrinsic record) の間の問題を取り上げ、内在的記録が最初に依拠されるべきであるとしました。従って、同裁判所は、辞書の定義と専門家の証言に基づき不明瞭(indefiniteness)を認定した連邦地裁の判決を覆しました。

Read More »