米国連邦巡回控訴裁(CAFC)は、クレーム解釈における内在的記録(intrinsic record)と外在的記録 (extrinsic record) の間の問題を取り上げ、内在的記録が最初に依拠されるべきであるとしました。従って、同裁判所は、辞書の定義と専門家の証言に基づき不明瞭(indefiniteness)を認定した連邦地裁の判決を覆しました。
明細書内におめる記載
グレースは、油井の掘削に使用される掘削液の粘度を試験するために一般的に使用される液体加圧式粘度計の特許を所有しています。グレース社の粘度計は、下部のチャンバーと加圧流体入口の間に「拡大チャンバー」(enlarged chamber) を使用しています。特許明細書によると、この拡大チャンバーは、試料液と加圧流体の混合や粘度計のシールから生じる摩擦によって生じる先行モデルの粘度計の測定誤差を低減するために設計されたものです。特許を取得した粘度計の下部チャンバー内には、「前記ローターを回転させるための駆動手段 」(“means for driving said rotor to rotate.”)を有するローターが設置されています。
連邦地裁では不定の判断
グレースは、チャンドラーがグレースの粘度計の特許を侵害していると主張し、チャンドラーを訴えました。連邦地裁は、クレーム解釈に際して、「拡大チャンバー」という用語は不定(indefinite)であり、「程度の用語」(“term of degree”) であるため、客観的な何かと比較されなければならない、と判断しました。連邦地裁は、チャンドラーを支持する最終判決を下し、グレースは控訴しました。
明細書内の記載が優先され用語は解釈されるべき
連邦巡回控訴裁は、「拡大チャンバー」の大きさは、いかなる基準物とも比較する必要はなく、むしろ「特定の機能を達成するのに十分な大きさ」である必要があると説明し、逆転判決を下しました。同裁判所は、明細書に基づき、特許に記載された粘度計は、「拡大チャンバー」を使用することにより、旧式の粘度計によく見られる試料流体と加圧流体の混合を低減することができると説明しました。また、裁判所は、出願人が、本発明は、旧式の粘度計の設計におけるシールの摩擦または流体の混合によって生じる測定誤差を低減することによって、「長期にわたる問題」を解決したと説明している出願経過を引用しました。したがって、当裁判所は、当業者であれば、先行技術の粘度計に伴う測定誤差を回避するためには、「拡大チャンバー」が加圧流体とサンプル流体の混合を防ぐのに十分な大きさでなければならないと理解するであろうと推論しました。
チャンドラーは、「拡大チャンバー」という用語は技術用語ではないと主張しました。CAFCはこれに同意したが、特許で使用されている「本質的な記録は、その用語の意味について当業者を十分に導くものである」と説明しました。連邦巡回控訴裁は、連邦地裁が、内在的記録(intrinsic record)の中に見出された用語の意味と矛盾する辞書の定義(外在的証拠 (extrinsic record))に依拠したのは誤りであったと判断しました。クレーム用語の意味に関する明細書の指示は、外在的証拠よりも優先されるべきものです。チャンドラーの主張を否定し、CAFCは、明細書がクレーム用語の解釈を支配するために、その用語を明示的に定義する必要はないと説明しました。
連邦巡回控訴裁は、新たなクレーム解釈に照らして不明瞭性(indefiniteness)を再検討するため、連邦地裁に本件を差し戻しました。
参考記事:Dictionaries Don’t Know Best: The Intrinsic Record Prevails (Again)