IDSで提出された文献はIPRの実施を決める上で、審査中に引用されていなくても特許庁に以前提出された同一又は実質的に同一の技術に該当します。そのため、そのような文献をベースにした主張をIPRで行う場合、特許庁が特許性について重大な形で間違っていたことを申立人が証明する必要があり、IPRの開始が非常に困難になります。
以前提出された文献や主張を再度IPRで審議することは難しい
IPRは他社特許を無効化するのに有効ですが、特許庁に以前提出された事項がベースになっている場合、IPRが開始されません。
PTAB審判委員会が、IPRの申立が特許庁に以前提出された事項がベースになっているかを判断するにあたり、以下の2点のフレームワークが使われます。
- 同一又は実質的に同一の技術が以前に特許庁に提示されたかどうか、又は、同一又は実質的に同一の主張が以前に特許庁に提示されたかどうか
- 1)のいずれかの条件が満たされた場合、特許庁が異議のあるクレームの特許性について重大な形で間違っていたことを申立人が証明したかどうか
1)の条件は「実質的に同一」(substantially the same)という表現が含まれているので、特許庁に以前提出された事項というのは、一般的な感覚よりも広い解釈が適用されることになります。
また、特許審査中にIDS参照されたものの審査官が引用しなかった文献をベースにIPRで無効主張を展開したいと思う申立人もいますが、これは決して簡単なことではありません。
IDS参照文献は引用されていなくても特許庁に以前提出されたとみなされる
Biocon Pharma Ltd. v. Novartis Pharmaceuticals Corp. IPR2020-01263, Paper 12 (PTAB Feb. 16, 2021)では、申立人がこの「IDS参照されたものの審査官が引用しなかった」という主張を展開しましたが、残念ながらIPRは却下されました。
1)のフレームワークを満たすかについて、審査会は主張された2つの文献はすでにIDSで参照されていた証拠を指摘。判例ですでに特許庁に以前提出された先行技術には情報開示明細書(IDS)などの記録も含まれることが明記されており、主張された2つの文献は1)の条件を満たすと判断されました。このことから、審査会は審査期間中に審査官によって引用されていなかったということを重要視していなかったことがわかります。
特許庁の重大な間違を指摘するのは難しい
次に1)の条件を満たしたので、2)のフレームワークの分析に入ります。2)の分析をするにあたり、原則として申立人が重要な誤りを示すことができなかった場合、一般的にIPRを実施しない裁量を行使することになっています。
この点において、申立人は、特許権者が示した相乗効果の結果が予想外のものであったことを審査官が認めたため、審査官は誤りであったと主張。しかし、特許権者は、37 C.F.F.R. 1.132 §1.132に基づく宣言を含む先行技術と記録の証拠が、予期しない結果という審査官の発見を裏付けるものであると主張し、審査会もこれに同意しました。よって、申立人が重要な誤りを示すことができなかったとして、委員会は§325(d)に基づく裁量権を行使し、IPRの実施を拒否しました。
参考文献:”Cited but Unapplied References Support Denial of IPR Institution Under § 325(d)” by Beau B. Burton. Element IP