侵害の誘発(inducing infringement)の認定には、無謀や過失を上回る限定的な範囲の基準である「故意の盲目」(willful blindness)が必要です。これは誘発された行為が特許侵害に当たるという知識が必要であり、そのような侵害者の主観的な考えが裁判所で認定されない限り、誘導侵害の証明は難しいと考えられます。
事件の背景
1995年、MesoはIgen Internationalとの研究契約の一部として設立されました。この契約により、Mesoは研究中に開発されたすべての技術に対する世界的な独占ライセンスを獲得しました。2003年、RocheはIgen社から「ヒト患者診断薬」の分野で事業を行うためのライセンスを取得。同年、BioVerisはIngenから特許の所有権を取得しました。
2007年、RocheはBioVerisを買収し、顧客に分野限定ラベルを無視するよう指導を開始。2010年、Mesoは、Rocheが分野制限に違反したことにより2003年の取引に違反したと訴え、訴訟を起こしました。裁判所は、Mesoは2003年の契約の当事者ではなく、BioVerisのみが分野制限を行使できると判断しました。
2017年、Rocheは、1995年のライセンス契約に起因するMesoの特許権を侵害していないとの宣言的判決を求めて提訴。これに対し、Mesoは特許権侵害を反訴しました。連邦地裁において、陪審員は、Mesoが主張された特許請求の範囲の排他的権利を有し、RocheがMesoの特許権を直接侵害したこと及び侵害を誘発したことの双方を認定しました。連邦地方裁判所は、侵害、侵害の誘発、および損害賠償を争うRocheの裁判後の申し立てを却下。しかし、同裁判所は故意侵害に関するRocheの申し立てを認め、損害賠償額の増額を求めるMesoの申し立てを否定しました。連邦地裁はまた、Mesoが追加3件の特許について強制侵害の反訴(compulsory infringement counterclaims)を放棄したことを理由に、非侵害の判決を下しました。この件は、上訴されます。
「故意の盲目」(willful blindness)の証明には無謀や過失よりも高い基準が求められる
連邦巡回控訴裁(CAFC)は、直接侵害の主張を認め、誘導侵害の主張を取り消し、損害賠償の裁定を取り消し、損害賠償に関する新たな裁判のために差し戻しました。
CAFCは、連邦地裁が侵害の誘発に関するRocheの申し立てを却下した際、裁判所は特定の意図を要求するのではなく、誤って過失の基準を適用したと判断。CAFCは、連邦地裁が要求される具体的な意図について、「自分の行為が実際の侵害を誘発することを知っていたか、知るべきであった」と誤った表現をしていることを強調しました。CAFCは、故意と誘発の意図基準の類似性に注目し、連邦地裁の判決は、Rocheが侵害行為や侵害の誘発はしていないと主観的に考えていたという裁判所の明示的な認定と矛盾していると判断しました。
CAFCはさらに、主張されている誘発行為は、特許損害賠償の制限期間外に発生したと判断。連邦地裁は、継続的影響という概念に依拠していたが、CAFCは、この概念に警戒感を示しました。CAFCは、この概念が健全であるとしても、Mesoは、損害賠償の制限期間前に発生した誘引行為が、損害賠償の制限期間内に実際に直接侵害の行為につながったことを証明できなかったと述べました。
CAFCは、3件の追加特許に関する連邦地裁の非侵害判決も取り消しました。CAFCは、強制的反訴規定は将来のクレームを禁止するものであるが、強制的反訴を主張しな かったという理由だけで、宣言的判決請求に対して不利な判決を下すことを認めるものではない、と判断しました。同裁判所は、連邦地裁の非侵害判決を取り消し、適切に主張された宣言的判決請求の適切な処理のために差し戻しました。
参考記事:The Heightened Standard of Proving Induced Infringement