近年の特許訴訟の戦略を見るとグローバル化が進んでいます。特にSEP(Standard essential patent)に関する訴訟ではその傾向が特に強いです。特許訴訟の和解の場合、世界規模の和解交渉が行われることがほとんどなので、特許権者としてはリスク分散の観点から複数の国で同時に訴訟を展開することも多くなりました。しかし、その時の訴訟資金は莫大な金額になるので、そのときにリーガル・ファイナンスを活用するケースも増えてきています。
国境を越えた特許紛争の例として最もよく知られているのは、アップル社とサムスン社の「スマートフォン戦争」でしょう。この紛争は、米国の地方裁判所、控訴裁判所、米国国際貿易委員会(ITC)のほか、オーストラリア、フランス、ドイツ、日本、韓国、スペイン、オランダ、英国の裁判所で繰り広げられました。しかし、国境を越えて注目を集めた大規模な特許訴訟はこれだけではありません。近年、特許訴訟はますますグローバル化しており、企業の訴訟担当者は、米国、欧州、アジアの各地域で同時に訴訟を行っていることも珍しくはありません。
特許訴訟戦略の国際化の利点
米国は長年にわたり、世界最大の特許訴訟の場となっています。米国には大きな市場があり、訴訟で勝つと多額の損害賠償金やその他の救済措置が与えられます。訴訟は陪審員の前で行われ、陪審員は発明者に同情的である傾向があります。また、特許権者は、連邦裁判所への容易なアクセス、広範なディスカバリーなどの手続き上の利点、強力な特許法の先例に頼ることができます。
しかし、近年ではリスクを分散し、被告への圧力を高めるために、リソースとIP資産を持つ請求者は、よりグローバルな戦略を展開する傾向にあります。例えば、ある法域で請求者に有利な判決が出れば、その法域で訴訟を起こし、世界規模での和解交渉を行へば、相手をより迅速に交渉のテーブルに着かせたり、より有利な条件で和解条件を結べる可能性が高まります。また、重要なグローバル市場で強力な差止命令による救済が可能になれば、多額の賠償金が得られる可能性が高まります。
米国外に拠点を置く企業は、地元で訴訟を起こすことで、ホームコート・アドバンテージを得ることもできます。そうすることで、地元企業に同情的な事実審理者を味方につけ訴訟を有利に進められる可能性があります。逆に、被告の母国で訴訟を起こした原告は、現地の裁判所の判決やそれに伴う不利な報道にさらされることを懸念して、被告の経営陣を揺さぶることができるかもしれません。
グローバルな紛争にはグローバルな資金提供を
特許請求者にとって、大規模なグローバル特許訴訟における潜在的な回収額は、数億ドルに達することもあります。このような高額な賠償金・和解金を得るには、莫大な訴訟費用がかかります。米国知的財産法協会(AIPLA)の最近のデータによると、2,500万ドル以上の価値がある米国特許訴訟の平均弁護士費用は300万ドルでした。この費用は、紛争が他の管轄区域にも及ぶと、さらに増加する可能性があります。
リーガル・ファイナンスは、このような複雑な知的財産権訴訟に従事する請求者を支援するために作られています。このような訴訟は、何年もの訴訟を必要とし、複数の被告、多額のディスカバリーや専門家の費用、並行して行われる訴訟、困難な控訴を伴う場合があります。企業の請求者にとって、第三者による資金調達は、多額の訴訟費用を貸借対照表から取り除き、過去の訴訟費用を回収し、事業運営と成長のための資金を確保するのに役立ちます。
リーガル・ファイナンスをおこなう企業でグローバルな資金提供を行うところもあります。その多くは、世界各国に拠点を持ち、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、北米などの主要地域での訴訟資金調達を成功させ、グローバルな特許紛争の資金調達をおこなっています。また、同時に世界中の専門家のネットワークを持っていることも多いので、請求者のグローバルな特許キャンペーンの価値評価、訴訟弁護士の選択、紛争期間中の戦略を行うときの支援も行っています。
参考文献:How legal finance can help claimants as patent disputes cross borders