今回のAppleに対する訴訟を見ると、イギリスは標準必須特許(SEP)の所有者にとって、意欲のないライセンシー(unwilling licensees)から適切なSEP費用を獲得するのに有利な管轄であることがわかります。
今回、Apple社とSEP紛争であるPan Optis/Unwired Planet事件において、高等裁判所のMeade判事が下した判決は、法廷で決定されたFRANDライセンスに応じようとしないSEP実施者を扱う英国のアプローチの概要を示しています。
2021年9月27日に出された判決の中で、Meade判事は基本的にAppleに2つの選択肢を与えました。(1) 2022年に行われる裁判で決定される条件でFRANDライセンスを受けることを今すぐ約束する、もしくは、(2)FRAND裁判が解決し、その条件を受け入れるまで英国市場からの差し止めを受ける。
注目すべきは、Apple社がイギリスの裁判所が設定するグローバルFRANDレートに合意することを断固拒否していて、最悪アップルがイギリス市場を放棄すると脅しているにもかかわらずMeade判事がこの最後通告を行ったことです。
背景
Optis社とApple社は、無線通信規格であるLTE(Long-term Evolution)に関するOptis社のSEP特許ポートフォリオをめぐり、長年にわたり世界的な紛争を繰り広げてきました。今年8月、アップル社がOptis社のSEP特許を侵害していることが判明し、テキサス州東部地区の陪審員は、Optis社に3億ドルの損害賠償を命じました。この判決は、前回の5億600万ドルという判決が、FRAND条件で特許をライセンスするというOptis社の責任に合致していない可能性があると判断した米連邦地裁のロドニー・ギルストラップ判事が再審を命じた結果です。アップル社は、この2度目の7桁の陪審員の判決を不服として控訴することは間違いないでしょう。
一方、イギリスでは、Optis社が主張する特許の有効性とApple社の侵害を判断するために、4つの技術裁判が行われています。(英国の制度では、特許の有効性と侵害の問題は技術裁判で特許ごとに扱われ、FRAND条件や競争法などの問題は別個に扱われるのが一般的とのこと。)
2021年6月、技術裁判の1つが終了した時点で、Optis社の特許の1つが有効かつ必須であり、Appleに侵害されていることが判明しました。2022年6月にFRAND裁判が開始され、グローバルFRANDライセンスの条件が決定される予定ですが、Optis社は、裁判所が決定するライセンスにアップル社がコミットする姿勢を示していないため、暫定的な差止を求めました。そのため、英国のずMeade判事は、アップルが意欲的なライセンシー(willing licensee)か、意欲がないライセンシー(unwilling licensee)かについての審理を行いました。
争点
Optis社は、Apple社が裁判所のFRANDライセンス決定を受け入れることを拒否したため、Apple社は意欲がないライセンシー(unwilling licensee)であり、European Telecommunications Standardisation Institute (ETSI)における保護の恩恵を受ける権利がないと主張しました。Optis社は、Apple社の拒否は、最終的にFRANDライセンスを受ける権利を失うことを意味し、また、Apple社が条件を受け入れるまでの間、FRAND差止命令を出すべきであると主張しました。一方、アップル社は、FRANDライセンスの条件を承諾する前に、内容を見ることができるべきだと主張しました。
裁判所の判断
裁判所は、Appleが、その後の裁判で決定された条件でFRANDライセンスへのコミットメントを行うことを拒否したため、Appleは意欲がないライセンシー(unwilling licensee)となったと判断しました。
裁判所は、技術裁判とFRAND裁判の間に単なる「偶然」が生じたというAppleの主張には動かされず、「もし(Appleが)FRAND条件について早期の確実性を望むのであれば、何か別の方法を主張することができたはずだ」と述べました。しかし、裁判所は、AppleがFRANDライセンスを受ける権利を永久に禁じていないと判断し、Optis社の無条件の差止請求を却下しました。
裁判所は、「Appleは、(FRAND裁判で)決定されたFRANDライセンスを締結することを約束した場合にのみ、Optis社のETSIへの約束に頼ることができる」と結論づけ、Appleに「そのように約束することを望むか、あるいは他の約束を申し出るかを検討するための短い時間」を与えました。
本判決で特に注目すべきは、裁判所がイギリスおよび海外におけるSEPおよびFRANDの法的状況を詳細に説明したことであり、これはしばらくの間、分析の材料となるでしょう。
考察
アップルは、2022年に設定されるFRANDレートに盲目的にコミットしない限り、英国内のすべてのLTE対応製品の差し止め命令を受けることになります。
Appleは、商業的に不合理と思われるFRANDレートを支払うくらいなら英国市場を放棄するかもしれないと述べていますが、Appleの足元は今、厳しい状況に置かれています。英国のアップルに対するアプローチは、Meade判事がSEP実装者に対して、FRAND条件に同意しなければならない(そして暗黙のうちに意思あるライセンシーとしての地位を決定的に証明しなければならない)、さもなければ厳しい結果に直面する、と示唆しているという点で、示唆に富んでいます。
FRAND条件に事前に同意しなかった場合、実施者が不本意なライセンシーであることをさらに証明することになるでしょう。ドイツなどの他の国では、すでに SEP 侵害者の差止に積極的な姿勢を示していますが、最近の動向を見ると、ドイツでの特許差止は将来的に制限される可能性があります。
今回の判決により、SEP保有者が実装者に対して最高の特許を活用するための欧州での主要な目的地が英国になるかもしれません。英国の判決を受けて米国の裁判所がどのような対応をとるか、特にエリクソンがFRANDを遵守していると認めたHTC対エリクソンの第5巡回区判決を踏まえて、見守っていきたいと思います。しかし、現在のところ、米国と英国の両国は、法律を明確にしているように見え、少なくとも最近の事例が示すように、SEP保有者が不本意なライセンシーに直面した場合に、その権利を主張するのに有利な司法管轄となるように動いています。
参考文献:Optis Puts Apple’s Feet to the UK Fire: Commit to FRAND or Be Snuffed Out