米国第5巡回区控訴裁判所は、EricssonがHTCに対して行った4GのSEPのライセンス供与がFRAND義務を遵守していると認めた陪審員評決を支持しました。 この判決はSEP保有者にとって重要なもので、この判決により、アメリカがライセンシーの紛争を積極的に裁くことが示され、裁判所が今後このようなケースにどのように取り組むかを知る上で有益な情報となります。
また、第 5 巡回区は、willing licensee に関する訴訟は特許法ではなく契約法に基づくものであるため、最小販売可能特許実施単位(SSPU: smallest saleable patent practicing unit )に基づく配分など、willing licensee に関する訴訟における特許損害賠償関連の分析の適用性を明確に拒否したことも重要なポイントです。
判例:HTC Corp. et al. v. Telefonaktiebolaget LM Ericsson et al., No. 19-40566 (5th Cir. Aug. 31, 2021)
この事件で、HTC CorporationとHTC America, Inc. (以下「HTC」)とTelefonaktiebolaget LM EricssonおよびEricsson, Inc. (以下、「Ericsson」)が2016年に開始した、2G、3G、4G技術に関するEricssonの特許について、HTCとEricssonの間で締結された3つ目のライセンス契約を更新するためのものです。
これまでのライセンス契約では、Ericssonの特許をHTCに1台あたり2.50ドルの料率で提供していましたが、2017年3月の会議で、HTCは4G端末1台あたりわずか0.10ドルの料率を提示し、Ericssonはこれを拒否したため、HTCは宣言的判決訴訟(declaratory judgment action)を提起するに至りました。
連邦地裁では、FRANDについて陪審員に以下のような指示が行われました:
ライセンスがFRANDであるか否かは、交渉中およびライセンスに至るまでに存在した特定の事実と状況を総合的に判断することになります。皆さん、FRANDライセンスレートの条件を設定または計算するための固定されたまたは要求される方法はありません。
この指示に基づいて議論が行われた結果、陪審員は最終的に、EricssonもHTCも誠実に交渉していなかったにもかかわらず、HTCはEricssonがFRAND義務に違反したことを証明していないとする評決を下しました。この地裁の判決は、第 5 巡回区に控訴されます。
第5巡回区は、FRAND違反訴訟は特許法訴訟ではなく、契約違反訴訟であるため、連邦地裁がSSPU(最小販売可能特許実施単位)に基づく配分をFRANDオファーの確立に必要な側面として陪審員に指示しなかったというHTCの訴えを退けました。
裁判所は、具体的に次のように述べています。
他の裁判所も認めているように、FRAND違反の主張を含む契約違反の訴訟は、「特許法の訴訟ではない」。損害賠償額を計算するために標準必須特許の価値を決定する行為は、独自のライセンス交渉で提示された特定のオファーが公正かつ合理的であったかどうかを評価することとは異なる。
また、裁判所は、特許権者が異なるライセンシーに異なるライセンス条件を提供する柔軟性を意図的に提供しており、オファーがFRANDであるかどうかを決定するのは、1つの条件やレートではないという見解を示しました。
教訓
SEP保有者が訴訟を起こす場合、どの国(や地域)でやれば有利になるか?と考えることはとても重要です。今回の判決で、アメリカはSEP訴訟に対してオープンであることを示し続けています。特に、今回の判決から、アメリカがFRAND違反や不本意なライセンシーの紛争を裁き、陪審員による解決も認めることが示唆されました。
さらに、この判決では、米国の裁判所は、不本意なライセンシーの紛争を契約上の紛争として認識しており、特許損害賠償の理論ではなく、市場の現実と同等のライセンスによってオファーがFRANDであるかどうかが決まるとしています。
このようなSEP保有者に有利は判決がアメリカで出されてたことによって、今後FRAND関連訴訟がアメリカで増えてくるかもしれません。