先行技術と重なるクレーム範囲であっても、クレームされた範囲だけで起こる特徴を示すことで特許が取れることもあります。しかし、そのような特許の権利行使には注意した方がいいというのが今回の判例です。CAFCは、地方裁判所の分析において一部の誤りがあったことを示しましたが、重複する範囲による明白性の判断を支持し、予期しない結果や商業的な成功の主張を退けました。先行技術と重なるクレーム範囲をもつ特許を取得する場合、クレーム範囲の特徴が程度の差ではなく、種類の差(例えば、新しい特性)である発明を選ぶと良いでしょう。
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判例:UCB, INC. v. ACTAVIS LABORATORIES UT, INC.
先行技術と範囲が重複する特許を権利行使
UCBは、ActavisがUCBの医薬品Neupro®を対象とした簡略新薬申請(ANDA)を提出した後、特許侵害を主張してActavisを提訴しました。
権利が主張された特許は、UCBの先行特許である“Muller” 特許の対象であったオリジナルのNeupro®処方よりも、室温での保存安定性が長い改良型のNeupro®に対するものでした。具体的には、この権利が主張された特許は、ポリビニルピロリドン(PVP)に対するロチゴチンの比率を高めることによって、オリジナルのNeupro®処方を改良したものです。しかし、主張特許で主張されたロチゴチンとPVPの比率の範囲は、先行特許であるMuller特許に開示された比率の範囲と重複していました。
連邦地裁は、Muller特許が開示する比率の範囲に鑑みて、主張された特許請求の範囲は先取りされたもの(anticipated)であり、かつ自明である(obvious)と判断しました。
UCBはこの判決を不服として控訴しました。
先行技術と範囲が重複する特許の有効性を見出すのは難しい
先取りされたもの(anticipation)に関しては、CAFCは連邦地裁の分析に法的誤りがあると判断しました。Muller特許は、クレームされた範囲と重なる比率の範囲を開示していることは議論の余地はありませんでした。したがって、CAFCは、連邦地裁が重複する範囲を分析するための一般的な枠組みを適用すべきであったと説明。しかし、連邦地裁の分析は、重複範囲に関する一般的な枠組みではなく、「直ちに想定される」(“immediately envisage”)という判例に依存していたため、CAFCは法的誤りを指摘しました。
自明性(obviousness)については、CAFCは連邦地裁の所見を支持しました。CAFCは、Muller特許がクレーム範囲と重複する比率の範囲を開示していたため、自明性の推定が適用されることに同意しました。また、Muller特許は、主張された特許の当時の技術状況を反映しているため、使用可能な先行技術であることに同意しました。CAFCはさらに、別の文献は、当業者がクレームされた比率の範囲を調査することを批判、信用、またはその他の方法で思いとどまらせるものではなかったため、反する教え(teaching away)はなかったことに同意しました。
CAFCはまた、予期せぬ結果(unexpected results)はなく、商業的成功の証拠としては弱いという連邦地裁の所見も支持しました。CAFCは、予期せぬ結果はないという認定が、当業者であればクレームされた比率の範囲と先行技術の範囲が同様の方法で薬物の安定性をもたらすと予想するという証拠によって裏付けられていることに同意しました。また、クレームされた比率の範囲と先行技術の範囲との間の安定性の違いは、程度の差(例えば、より高い安定性)であり、種類の差(例えば、新しい特性)よりも説得力に欠けることを強調しました。CAFCはまた、先行技術のMuller特許は、競合他社が主張特許でクレームされた製剤を開発することを妨げる特許として機能していたため、商業的成功の証拠が乏しいとしました。
参考文献:Claimed Ranges Overlapping the Prior Art Can Lead To Short Patent Shelf-Life