コロナ禍のクリエイティブな宣誓証言

アメリカのPTABにおける付与後の手続きや訴訟では宣誓証言(Depositions)を取る必要が出てきます。しかし、証人が日本のような海外にいる場合、宣誓証言を取れる場所はかなり制限されてきます。コロナ禍で渡航や普段使用できるサービスの使用ができない状況下で手続きを迅速に進めるには宣誓証言に関してもクリエーティブなアプローチが要求されます。

判例BlueCatBio MA Inc. v. Yantai AusBio Laboratories Co., Ltd.(PGR2020-00051)

今回の事例に関する書面はこちら

宣誓証言を取れる場所はかなり限定されている

特許審判部(PTAB)での手続きのための宣誓証言(Depositions)は、通常、米国内で行われます。37 C.F.R. § 42.53(b)(2)、(b)(3)を参照のこと。 さらに、多くの外国の法域では、米国の裁判で使用する目的の宣誓証言を取る際に、場所が制限されることがあります。

このように宣誓証言を得るには地理的な制限があるので、通常のPTABの手続きにおいて、海外在住の専門家証人に反対尋問(cross‑examination)を行う際に、米国に出張してもらうことが多いです。

コロナ禍で渡航が難しい中、クリエーティブな発想が求められる

しかし、現在世界中で実施されている様々な旅行制限や検疫要件のため、このような手配はますます困難になっています。 PTABと当事者は、BlueCatBio MA Inc. v. Yantai AusBio Laboratories Co., Ltd.(PGR2020-00051)においてこの課題に直面し、ユニークな形で解決しました。

今回はこのケースにおける取り組みを紹介します。

アメリカに来ることもできないし、在日米国大使館・領事館も使えない

この事件では、申立人 BlueCatBioが2020年4月1日にPGR(Post Grant Review)の申立を提出し、その中には日本在住の八木良樹氏の専門家宣言(expert declaration)が含まれていました。

PTABは、2020年12月15日にこのケースの審議を開始。 しかし、八木氏への反対尋問には様々な課題がありました。 PTABの規則では、宣誓証言は「米国内の場所で、宣誓を行うことを許可された利害関係のない公的な立場の人の前で行う」37 C.F.R. § 42.53(b)(2)とされていますが、海外渡航が制限されている現状を考えると現実的ではありませんでした。

代替としてPTABの規則では、「当事者の合意または委員会が明確に指示した場合」に米国外でのデポジションを認めていますが、同規則第42.53(b)項は、「当事者の合意または委員会が明確に指示した場合」米国外での宣誓証言を認めていますが、日本の法律では、日本国内の米国大使館または領事館内での宣誓証言しか認められていません。しかし、在日米国大使館・領事館は、パンデミックのために宣誓証言を行うための施設を利用できなくなっています。

宣誓なしの「インタビュー」

この問題に直面して、当事者はクリエーティブな解決策を見出しました。

ビデオ会議で八木氏に宣誓のない「インタビュー」を行い、通訳が英語と日本語を通訳し、八木氏がインタビューのバイリンガルのトランスクリプトに署名し、それを八木氏の証人陳述書として提出するというものです。

PTABはこの解決策を承認しました(実際の書面はこちら)。

PTABは、「PGRを1年以内に完了させるという法令上の要件」を考慮して、「米国内の場所で、宣誓を行うことを許可された利害関係のない公的な立場の人の前で行う」37 C.F.R. § 42.53(b)(2)というルールを放棄する必要があったと述べています。

今回の取り組みが今後広く採用されるかはわかりませんが、コロナ禍では宣誓証言(Depositions)の取り方1つに関してもクリエーティブなアプローチが求められます。

参考文献:”Creative COVID-Time Deposition Procedure” by Alex Li and Matthew W. Johnson. Jones Day

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

medical-treatment
特許出願
野口 剛史

治療に関する使用方法の特許クレームの範囲とその価値

治療に関する発明の保護に関して、使用方法(MOU: method of use)やその他の補完的な特許クレームの範囲の価値を見ていきましょう。このようなクレームは、ライフサイエンス分野で他のクレームタイプよりも推奨されることの多い物質組成(COM: composition of matter)特許クレームと比較しても、大きな価値を有しています。

Read More »
商標
野口 剛史

NFT関連商標をアメリカで出願する時は最低でも使用する意思が必須

最近の非代替性トークン(NFT)の急増により、大量のNFT関連商標がアメリカで出願されています。商標権者の一部はこの新興市場を利用することを計画している一方、他の商標権者は権限のない使用からブランドを保護するために商標を出願しています。しかしながら、米国法では商標権者は商標を商業に使用するか、使用する意図を持っている必要があります。商標出願に使用または意図がない場合は、無効になる可能性があります。また第三者は、商標出願または登録が真正な使用または意図がない場合に、商標出願を異議申し立てることができます。そのため、NFT商標の出願数が増加するにつれ、商標使用または意図に関する異議申し立てが予想されています。

Read More »
その他
野口 剛史

法律では例外?著作権登録において法律の無知が言い訳になる

最高裁は、登録者の著作権法に対する無知や誤解に起因する不正確な情報が含まれていても、著作権登録は有効であると判示しました。この判決により、単に不正確な情報に基づいて著作権登録が無効となる可能性は低くなったと言えるでしょう。しかし、これは知財では例外として扱われるべきです。

Read More »