特許審査の過程で特許権者が矛盾する主張を展開すると最悪の場合、不公正な行為(inequitable conduct)があったとされ、特許権の行使ができなくなる可能性があります。これには特許庁以外でおこなった主張も含まれるので、特許に関連する製品の様々な認証手続きなどを行う際は注意が必要です。
判例:BELCHER PHARMACEUTICALS v. HOSPIRA, INC.
Belcher Pharmaceuticals社は、その最高科学責任者であるルービン氏を通じて、l-エピネフリンの製剤についてFDAに承認を求め、取得しました。 この承認を得るために、Belcher社は、pH2.8から3.3の範囲がl-エピネフリンのラセミ化によく影響することを記載した先行文献を提示していました。
ルービン氏はその後、Belcher社の製剤に関する特許出願をサポート。 Belcher社は、pH2.2〜5.0の類似製剤を記載した先行技術と区別するために、2.8〜3.3の範囲がラセミ化を抑えるために発明者によって「予想外に重要であることがわかった」と主張し、 USPTOはこの主張を受け入れ、Belcher社に特許を発行しました。
予想外の結果(unexpected result)は発明の特許性を示すために主張されるものですが、当然のことながら、そのような結果が先行文献に記載されていたのであれば、予想外の結果ということにはなりません。
特許を取得した後、Belcher社はHatch-Waxman法に基づく侵害訴訟でHospira社に特許を権利行使します。
しかし、Hospira社は、特許権者であるBelcher社が、特許審査の過程で特許権者の事前の主張やFDAに提出した証拠と矛盾する主張を展開したことは、不公正な行為(inequitable conduct)であるため、特許権の行使ができないと主張。
連邦地裁はこれに同意し、ルービン氏が、FDAに対して想定外とされるpH範囲を開示していたために、特許性にとって重要な先行技術文献の開示を怠ったと判断しました。 また、裁判所は、Rubin氏が、Belcher社の製剤のFDA承認に関わる仕事をしていたために、これらの文献およびクレームされたpH範囲の開示を知っていたと判断。 したがって、Belcher社の特許は執行不能であるとしました。
この判決は控訴されますが、連邦巡回控訴裁(CAFC)は、連邦地裁の権利行使不能の判決を支持。Belcher社は、CAFCに対してルービン氏が特許庁に提出しなかった文献は、クレームされたpH範囲以外の特定の特徴を開示していないため、無関係であると考えていたと主張。しかし、 CAFCは、証拠から見て、この言い訳はあり得ず、信憑性がないとした連邦地裁の判断に明確な誤りはないと判断。 従って、CAFCは、連邦地裁の権利行使不能の判決を支持しました。