特許審判部(PTAB)は、先行技術として依拠したマニュアルの事実背景から35 U.S.C. §311(b)の「印刷出版物」(printed publications) に該当しないと判断した上で、異議申立されたクレームの特許性を維持しました。
ケース:Weber, Inc. v. Provisur Technologies, Inc., IPR2020-01556, Paper 67 (March 31, 2022).
マニュアルは機密管理され限定的な配布のみ
特許権者であるProvisurは、訴願人Weberのマニュアルは機密として管理されており、マニュアルは限定的にしか配布されなかったため、印刷出版物ではないと主張。PTABはこの主張を受け入れ、Weberがその操作マニュアルが印刷出版物に該当することを証拠の優越によって証明できなかったと結論付け、異議を唱えられたクレームの特許性を維持しました。
訴訟で権利行使された特許がIPRにかけられる
Weberは、米国特許第10,625,436号(「’436特許」)のクレーム1-16に対する審査請求(inter parte review)の申立てを行いました。この’436特許は、現在Provisur Technologiesが所有しており、食品スライサーの一種をクレームしています。
また、’436 特許に関しては連邦地裁の訴訟が行われており、IPRの当事者が関与しています。Provisur Technologies, Inc. v. Weber, Inc. et al, Case No.5-20-cv-06069 (W.D. Mo., filed May 6, 2020)。
Weberは、同社の2006年版904操作マニュアル(「2010マニュアル」)および2010年版904操作マニュアル(「2010マニュアル」)とLindeeという先行例文献と組み合わせた場合、’436特許のクレームには特許性がないとして異議を唱えていました。
マニュアルは製品に付属して販売されていたが機密扱いだった
この主張における重要な争点は、特許無効を主張するWeberが示すマニュアルが35 U.S.C. § 311(b)の要件である「印刷出版物」に該当するかという点でした。Weberは、マニュアルが50以上の出荷された食品スライサーに含まれていたため、そのマニュアルは印刷出版物として適格であると主張。また、Weberは、マニュアルは要求に応じて一般に公開され、展示会で閲覧可能であったとも主張。
これに対し、Provisur社は、食品スライサーに付属するマニュアルには機密(confidential)と記載されており、マニュアルを機密扱いとするのが業界の慣例であるため、マニュアルは印刷出版物には該当しないと主張。また、Provisur社は、Weber社が関係者にマニュアルへのアクセスを提供する方針の証拠を提出しなかったとも主張しました。
限定配布の際の「印刷出版物」としての取り扱いルール
文献は、当該技術分野における通常の知識を有する利害関係者の合理的な努力によってアクセス可能であれば、印刷出版物として扱うことができます。(A reference qualifies as a printed publication if it is accessible through reasonable diligence of an interested person of ordinary skill in the art. )
また、Cordis Corp. v. Boston Sci. Corp.によれば、「限られた数の組織にしか配布されなかった場合、機密保持の拘束力のある契約は、公共のアクセス可能性の認定を無効にすることができる」とされています。
事実に照らし合わせてマニュアルが「印刷出版物」であるかを分析
審査委員会は、まず、マニュアルが限られた数の組織を超えて配布されたかどうかを分析しました。Cordisと同様、審査会は、マニュアルの総発送数ではなく、どれだけのユニークな組織がマニュアルを受け取ったかを分析。Weberの証拠書類には、マニュアルを受け取ったユニークな事業体がわずか10社であることが示されており、審査会は、配布は限られた数の事業体を超えて行われていなかったと判断しました。
そして、マニュアルに含まれる登録内容とフードスライサーの注文に関連する「利用規約」に基づいて、マニュアルが機密であると判断。マニュアルについては、Weberの「書面による承認」がない限り、マニュアルの譲渡を一切禁止し、社内利用のためにのみ複製を許可していることから、マニュアルが機密性を要求していることを特に指摘しました。
スライサーの販売に関連する「条件」に関して、審査会は、マニュアルには、顧客に提供されたすべてのものの所有権はWeberが保持することが記載されていると判断。そして、販売に失敗した場合は、提供されたマニュアルを直ちに返却することが条件となっていました。
最終的に、Weberは、2006年版マニュアルと2010年版マニュアルが関心を持つ一般の人々が入手可能であったという十分な証拠を提示しなかったと判断。Weberは、証人を通じて証拠書類の文脈を説明しようとしました。しかし、審査会は、証人がそれぞれ訴訟の結果に関心を持つWeberの従業員であり、証人が書類上の証拠と矛盾する証言をすることもあったとして、その証言は説得力がないと判断しました。
最終的に審査会は、2006年版マニュアルと2010年版マニュアルが法律上の「印刷出版物」ではないというこということを考慮した結果、争われたクレームは非自明なものとして特許性を維持する判断を下しました。
マニュアルが「印刷出版物」に該当するかは状況によって異なる
今回の意見は、マニュアルが35 U.S.C. §311(b)の「印刷出版物」(printed publications) に該当するか否かを見極める上で重要なポイントをいくつか示しています。マニュアルを印刷出版物として使用することを検討する場合、配布の範囲と潜在的な機密保持の議論を分析する必要があるでしょう。
また、申立人は、証拠書類を提出するか、少なくとも、秘密保持の認定に反対する議論を裏付ける利害関係のない証人を提出できるように準備する必要があります。