広いクレーム用語を明細書内の狭い用語に再定義することは容易ではない

特許侵害を疑われている側は、侵害判決を逃れるため(または侵害対象製品を少なくするため)に、クレームで使われている用語の定義を限定的なものとして主張する場合があります。そのようなときに、明細書内の狭い用語に再定義するような主張を展開することもあるのですが、今回の判例ではそれが簡単ではないことを物語っています。

判例:APPLE INC. V. WI-LAN INC.

Appleは、'145および'757特許の全クレームについて非侵害および無効の宣言的判決(declaratory judgment)を求めてWi-LAN, Inc.を訴えました。

地裁ではクレーム用語の解釈が問題に

クレームの解釈に際し、両当事者は "subscriber unit "の解釈について争いました。

Appleは、明細書において "subscriber unit "は "fixed or portable customer premises equipment"(CPE)と定義されていると主張し、

(1) CPEとsubscriber unitが交換可能に用いられている点、

(2) "subscriber unit "の唯一の実施形態としてCPEを用いている点、 

(3) 特許権者による予備補正(preliminary amendment)においてCPEに関するクレームは、 "subscriber unit" に関するクレームに置き換えられていた点、

(4) 特許権者による関連特許の他の同様の用語と交換的に使用している点、

を指摘してしました。

しかし、連邦地裁は、 "subscriber unit "をCPEとするAppleの解釈を否定し、ライセンスの観点から一部の製品については非侵害の略式判決を下し、その他の製品については非侵害のJMOL(judgement as a matter of law)を否定しました。

しかし、損害賠償に関する裁判が2回行われ、Wi-Lanは最終的に「キーパテント」理論に依拠した合理的なロイヤルティ率に基づく損害賠償を確保。Appleは、連邦地裁の "subscriber unit "の解釈、JMOLの否定、損害賠償を不服としてCAFCに控訴。Wi-Lanは、非侵害と損害賠償に関する略式判決を不服とし、反対控訴しました。

用語に互換性があるのではなく、問題視された用語はクレーム用語の「一種」

CAFCは連邦地裁の解釈を支持しました。

CAFCは、特許明細書内において "subscriber unit "がCPEとして再定義しているというAppleの主張を、内在する記録( intrinsic record)は支持していないと結論づけました。字句解析の基準(standard for lexicography)を適用し、CAFCは、2つの用語が装置または実施形態の同じ面を表現するために交換可能に使用されていることを、明細書が明確に示しているとは言えないと判断。むしろ、記述された内容は、CPEが "subscriber unit "の一種であることを明らかにしており、この用語が交換可能であることを示すには至っていないとしました。

さらに、明細書には、「明白な除外または制限の言葉または表現」がなかったため、本発明がCPEに限定されることを証明することができなかったとしました。最後に、CAFCは、審査中にあるクレーム用語を他の用語に置き換えたとしても、それだけでは、その用語が同等であることや互換性があることを示すことにはならないとしています。

このような理由から、CAFCは、用語の平易で通常の意味から逸脱している兆候はなかったとして、連邦地裁のクレーム解釈の判断を支持しました。

さらに、CAFCは、非侵害に関するJMOLの否定を支持し、ライセンスが失効したと結論付けた上で非侵害の略式判決を覆し、「キーパテント」の配分方法に欠陥があるとした上で、損害賠償に関する第三審のために地裁に差し戻しました。

クレーム解釈で主張する定義に用いる用語は注意するべき

Appleとしては、クレームに書かれている "subscriber unit "という用語を明細書に書かれているより狭い意味合いをもつCPE(customer premises equipment)として解釈させて、クレーム範囲を狭め、非侵害の主張を認めさせる、または、侵害対象となる製品を少なくしたい、という思惑があったのだと思います。

しかし、CAFCは、CPEが "subscriber unit "の一種であることが明細書を含めた内在する記録( intrinsic record)は示していて、明確にCPEが "subscriber unit "と同じ意味で互換性のある言葉だというようには解釈しませんでした。

クレームの範囲は、クレーム文言の意味合いによっても大きく変わってくることがあるので、訴訟時のクレーム解釈時における用語の定義については、慎重に検討し、特に、自分が主張する解釈が十分明細書をはじめとする内在する記録( intrinsic record)によってサポートされていることを確認するべきでしょう。

参考文献:Intrinsic Record Thwarts Theory of Interchangeability

追加記事

特許において、クレームの限定事項が明確に記述されているかどうかは、特許の有効性を左右する重要な要素です。今回、Maxell, Ltd.対Amperex Technology Limitedの判決は、特許クレームの解釈において、限定事項間の表面上の矛盾をどのように扱うべきかという問題を浮き彫りにしました。本文では、この重要な判決を深堀りし、一見矛盾すると思われる限定事項が、実際には特許の不明瞭性(Indefiniteness)を生じさせない理由について探求します。特に、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)がどのようにこれらの限定事項を同時に満たすことが可能であると見做したか、その解釈の根拠と、特許クレームを起草する際の実務上の教訓に焦点を当てて考察します。
特許法における「組み合わせの動機」(Motivation to Combin)の概念は、発明が発明された時点でその分野の通常の技術者(PHOSITA)にとって自明であったかどうかを判断する上で不可欠な要素です。自明性の問題は、新しい発明が既知の技術要素の単純な組み合わせに過ぎないのか、それとも特許に値する独自の技術的進歩を表しているのかを区別するために重要です。このブログ記事では、特許請求の自明性を評価する際に中心となる「組み合わせの動機」の概念と最高裁判決であるKSR判例を解説し、Virtek Vision 対 Assembly Guidance Systemsの事件を例に、実際の訴訟におけるこの概念の適用方法について掘り下げます。
先月、米国特許商標庁(USPTO)が「Means-Plus-Function」に関するメモランダムを発行し、審査官に最新ガイダンスを提供しました。その内容は実務における大きな変更を意味するものではなく、既存の法的枠組みの下でより明確な指針を提供することを目的としています。しかし、このタイミングにおけるガイドラインの発行は、35U.S.C.112条(f)に基づく一風変わったクレームの形式であるMeans-Plus-FunctionがUSPTOにおける特許審査で注目されていることを示しており、改めてガイドラインに沿った適切なクレームドラフティングが求められることを意味します。