ブロックチェーン出願の特許適格性に関するUSPTOの取り扱い

特許審査の不服申立てデータや実際のケースを見ながら、米国特許商標庁(USPTO)がブロックチェーン関連の特許出願をどのように扱ってきたかを確認します。その中で、USPTOの考え方を知り、権利化する上での重要なポイントを語ります。

PTABにおけるブロックチェーン特許審査の不服申立ては覆っていない

過去1年間、特許審判委員会(PTAB)は、101条に基づくブロックチェーン特許の審査官による拒絶に対する不服申し立てについて、いくつかの決定を下しています。このうち、PTABは101条を理由とする拒絶を覆すことはしていません。(このサイトから”blockchain “で検索。)この事実は、ブロックチェーン特許が発行されていないという意味ではないのですが、興味深い事実です。

2019年1月に公表されたPTOの101条ガイダンスの更新や、裁判所における101条の取り扱いに一貫性がない現状を考えると、このようにブロックチェーン出願の拒絶が一様に肯定されることは予想外ではありません。現在の法律の不確実性を考慮すると、PTABは、実際の出願の詳細を知る審査官に判断を委ねているように見え、そのような対処がPTABにとって最も安全な行動と考えているのかもしれません。

単なるブロックチェーンや暗号データの利用では足らない

次に、実際のPTABによる不服申し立て審議(Ex parte McCann, No.2021-003397 (P.T.A.B. March 7, 2022))におけるPTABの見解を見てみましょう。

このケースにおいて、PTABは’824出願のクレーム1を検討し、ブロックチェーンに関わる支払い手段を抽象概念に向けたものであると認定してます。PTABは、クレームにブロックチェーンと暗号データの記載があるにもかかわらず、クレームが不適格である理由を以下のように説明しました:

ブロックチェーンに関する記載については、ブロックチェーン自体は一般的かつ従来のものであり、本質的には会計帳簿である。特許請求の範囲には、技術的な実装の詳細は記載されていおらず、その代わり、特許請求の範囲には、ブロックチェーンをストレージに使用するという概念的なアイデア以上のものは記載されていない。

同様に、暗号データの記載は、一般的かつ慣用的なものである。このような記載は、技術的な応用や実装の詳細を記載することなく、暗号の概念的なアイデア以上のものではない。

このような理由を説明した後、PTABは、クレームは、記載された抽象的なアイデア以上のものを提供していないため、発明概念を提供していないと判断しました。PTABは、クレームを個々に、及び、順序付けられた組み合わせとして分析した場合、それらは「一般的なもの」であり、特許による保護にあたるものではないと判断しました。

ブロックチェーン技術を用いた発明の権利化ポイント

この判決は、USPTOでの審理を進める上で参考になるものです。特に、現在のビジネス慣行を改善する方法としてブロックチェーン技術を持ち出すことには注意が必要でしょう。言い換えれば、既存の金融慣行を「ブロックチェーンで行う」というクレームは、101条による精査を通過するのが難しいと言わざる負えないです。むしろ、クレームは、そのクレームが基礎となるブロックチェーン技術の運用をどのように改善するのかを強調すれば、権利化できる可能性があるでしょう。

参考文献:PTO’s Handling of Patent Eligibility for Blockchain Applications

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

歯車
訴訟
野口 剛史

商標権と意匠権が交わるとき:デザインに商標が含まれている場合の注意点

30年近くの間、被告の製品のデザインに商標が含まれていることは、意匠特許(design patent)侵害の分析においてあまり意味を持ちませんでした。しかし、今回紹介するケースにおいて、陪審員が商標の外観や配置が、特許デザインとは「異なる視覚的印象を普通の観察者に与える」可能性があるかどうかなどを検討したことで、その状況が変わりました。

Read More »
商標
野口 剛史

ロシアでマクドナルドや有名ブランドのパクリ商標が出願されている

ロシアでは前例のない形で知財が取り扱われていますが、特許につぎ、商標も「紙切れ」になる危険性を帯びています。マクドナルドを始めとする有名ブランドの「パクリ」商標が数々出願され、商標の権利行使も絶望的な中、非友好国の企業が保有しているロシア国内の商標の価値が問われています。

Read More »
著作権
野口 剛史

少額著作権問題を解決するCCBの1年目の成果はどうだったのか?

小規模の著作権紛争の解決オプションとして著作権請求委員会(CCB)ができて1年経ちました。申し立てのほとんどが審理に至らないケースだったため、CCBの貢献度や成果を総合的に評価するのは現時点では難しいですが、会社や組織の規模に限らず、少額の著作権問題の効果的な解決方法として今後もCCBが活用されていくことが期待されています。

Read More »