特許審査の際に特許性に関わる重要な情報を特許庁に開示しないで特許を取得した場合、権利行使した際に、その非開示が不公正な行為(inequitable conduct)とみなされ特許の権利行使が出来なくなる場合があります。今回もそのようなケースで、更に悪いことに他のケースと比較しても特許権者の行為が悪質なので、総合的に判断した結果、相手の弁護士費用の支払いを命じる特別な事件(exceptional case)として認定されてしまいました。
米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)への2度目の上訴において、裁判所は、1度目の上訴の際に法定バー(statutory bar)の先行販売(prior sales)に関する「悪意のある」(bad faith)非開示に基づく不衡平行為(inequitable conduct )による権利行使不能(unenforceability)の認定を肯定。さらにその後、35 U.S.C. §285に基づく例外性の認定に基づく弁護士費用(attorneys’ fees)の再送裁定を肯定しました。
判例:Energy Heating, LLC v. Heat On-The-Fly, LLC, Case No.20-2038 (Fed. Cir. Oct. 14, 2021) (Prost, J.)
1度目の上訴における判決において、CAFCは、連邦地裁が弁護士費用を拒否したことを覆した後、本件を再送。その理由に、連邦地裁は、Heat On-The Fly (HOTF)がクレームされた方法の複数の先行使用の事実を米国特許商標庁(USPTO)に開示しなかったことを不正行為であると正しく認定したものの、不正行為の認定に対してHOTFが実質的な主張(実験的利用)を行ったこと以外に、弁護士費用を拒否する根拠を明確にしなかったことを指摘しましtが。
このCAFCにおける1度目の判決を受け、再審理をした結果、連邦地裁は、「最近の判例法、HOTFの不公正行為の性質と程度、陪審員による悪意の発見を考慮すると、§285の意味するところの他の事件とは異なる」という理由で、本件を特別な事件(exceptional case)と断定。これを不服にHOTFはCAFCに控訴します。
2度目のCAFCへの上訴において、HOTFは、陪審員の悪意の認定に依拠することで連邦地裁が裁量権を逸脱した(abused its discretion)と主張。その理由として、そのような認定は「HOTFの訴訟上の立場の強さや弱さとは何の関係もない」からであるとしました。しかし、CAFCは、Octane Fitnessにおける2014年の最高裁判決を引用し、「HOTFは、悪意を持って有効な特許を保有していると主張しており、そのような行為を考慮するのは、HOTFの侵害訴訟の状況を総合的に判断する連邦地裁の『衡平な裁量』の範囲内であった」と説明し、この主張を退けました。
またHOTFは、陪審員がHOTFは詐欺の不法行為(tort of deceit)を犯していないと判断したため、不公正な行為(inequitable conduct)を行った可能性はないという主張を展開し、よって、連邦地裁は例外性の認定において誤って陪審員の評決に依拠したと主張。しかし、CAFCはこの主張を退け、不衡平行為は陪審員ではなく連邦地裁で審理され、その結果、当裁判所は前の控訴で肯定した執行不能の判決を下したこと、また、州法上の詐欺の不法行為(tort of deceit)がなかったという陪審員の認定は不衡平行為とは関係ないことを指摘。
さらにCAFCは、Electronic Communication Technologies v. ShoppersChoice.comにおける同裁判所の2020年の判決に基づき、連邦地裁はHOTFが主張する「訴訟上の不正行為の欠如」の有無を肯定的に判断する必要はないというHOTFの主張は正しくないと説明。むしろ、「(特許権者が)訴訟を行った方法、またはその広範な訴訟行為」は、単に「関連する考慮事項」に過ぎないとしました。Octaneの下では、ある事件が§285の下で「例外的」であるかどうかのテストは、それが「当事者の訴訟上の立場の実質的な強さ、または事件が訴訟された不合理な方法に関して、他から際立っているもの」であるかどうかであるとしました。
最後に、CAFCは、連邦地裁が「不公平な行為の認定は、例外性の認定を義務付けるものではない」と正しく説明し、例外性の結論に達するにあたり、Octane Fitnessの分析と本件の事実を適切に考慮したと指摘しました。
参考文献:This Case Is Both Hot and Exceptional—Attorneys’ Fees and Inequitable Conduct