2月4日、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、カリフォルニア工科大学(Caltech)が AppleとBroadcomに対して提起した特許侵害訴訟における地裁の損害賠償命令を破棄し、賠償金に関する新しい裁判を地裁に命じました。これによりAppleとBroadcomは11億ドルをCaltechに支払わなくてよくなりました。(しかし、和解しない限り、今後の地裁で決まる賠償金の支払い義務は依然としてありますが…)
地裁では陪審員が11億ドルもの損害賠償額を認める
Caltechは2016年に、ワイヤレスデータ送信に関連する大学の特許を侵害したとしてAppleとBroadcomを訴えました。Broadcomが、iPhone、iPad、AppleWatchなどのデバイスで使用される無線周波数チップをAppleに提供していたため、この2社が被告として名を連ねました。この地裁での訴訟は、2020年1月に終わり、陪審員はAppleとBroadcomの侵害を認め、Appleに対して8億3780万ドルの支払い、Broadcomに対して2億7,020万ドルの支払い(合わせて1億ドルの賠償金の支払い)を命じる判決を裁判所は下しました。この判決に対し、AppleとBroadcomの両社は上訴していました。
正しくなかったCaltechの2段階損害賠償理論
CAFCは、Caltechの2段階損害賠償理論(two-tier damages theory)は訴訟の記録上支持されないとして、陪審員の損害賠償額を取り消し、新しい裁判のために差し戻しました。
この2段階損害賠償理論というものですが、これは「同じチョップにおける同じ被疑技術から責任が生じたにもかかわらず、各侵害者に異なるロイヤルティ率を求めた」ものです。Caltechは、2人の専門家を用いて、この理論に基づき、Broadcom社とは「チップレベル」、Apple社とは「デバイスレベル」の2つの仮想的な交渉を同時に行っていた場合のロイヤリティを想定しました。
しかし、CAFCはこの理論を否定し、「ここで、Broadcom と Apple が、同じチップに対して単一のレートで単一のライセンスを交渉するよりも、このような人為的な方法で交渉しようとしたことを示す記録は何もない。」とし、「Caltechの専門家はいずれも、BroadcomとAppleが、同じチップについて全く異なるロイヤルティ率につながる個別の交渉を行うことを望んでいたと結論付ける、事実上の根拠を提示していない」という理由を示しました。
よって、CAFCは、Caltechが主張した2段階損害賠償理論に基づく損害賠償は、記録上、法的に支持できないため、取り消し、差し戻すと結論づけました。
地裁での新しい裁判では賠償金はかなり減額される?
CAFCでCaltechが主張した2段階損害賠償理論は不適切だということになったので、地裁での新たな審議では11億ドルよりも低い金額の賠償金の算定がおこなわれることでしょう。特に、CAFCが言っていたような一般的な「同じチップに対して単一のレートで単一のライセンスを交渉する」ことを前提とした損害賠償理論が適用されれば、11億ドルよりもかなり減額された数字になることが予想されます。
しかし、特許権者のCalTechは、AppleとBroadcomの他に、Microsoft, Samsung, や Dellも訴えているようなので、そのような地裁での判決が出る前に、AppleとBroadcomと(11億ドルよりもだいぶ安い金額で)和解することも十分考えられます。
参考文献:Apple, Broadcom win new damages trial in $1.1B Caltech patent case、CAFC Orders New Trial on Damages, Clarifies IPR Estoppel Rule in Appeal of Caltech’s $1.1 Billion Win Against Apple and Broadcom