先行詞(Antecedent Basis )を有しないクレーム要素は先行詞を有する同要素より広範であると解釈される可能性がある

既存の製品を「改造」するアクセサリー等で、改造前の従来あるパーツとアクセサリーのパーツが重複する可能性がある場合、クレーム内で先行詞やその他の修飾語でパーツを限定しておかないと、改造前の従来あるパーツとアクセサリーのパーツ、どちらも含むような意図しない広範囲なクレーム文言として解釈されてしまう可能性があります。

判例:EVOLUSION CONCEPTS, INC. v. HOC EVENTS, INC.

Evolusion Conceptsは、銃器マガジンコンバージョンキットに関する特許の侵害でJuggernaut Tacticalを訴えました。侵害と非侵害の略式判決を求める二重の申し立てにおいて、当事者は、「magazine catch bar」という用語が工場で取り付けられたcatch barを含むかどうかが争点になりました。

連邦地裁は、明細書の一文を根拠に、クレームが工場で取り付けられた magazine catch bar を除外しているとJuggernaut社に有利な結論を下し、本発明は、「標準的なOEMマガジンキャッチアセンブリを取り外し、本発明を取り付けることにより、半自動銃器に追加される恒久的な固定具である。」としました。この結論を不服にEvolusion社は控訴。

控訴審において、Juggernaut社は、クレームでは「said」や「the」のような先行詞的な表現ではなく「magazine catch bar」の前に「a」を使用しているため、連邦地裁の解釈が正しく、係争用語は工場装着のキャッチバーを除外しており、したがって、二つのマガジンキャッチは異なるはずである、と主張。

しかし、CAFCはこれに同意せず、連邦地裁がJuggernautの申し立てを認め、Evolusionの 申し立てを却下したことを覆しました。CAFCは、「said」や 「the」のような先行詞ベース(Antecedent Basis)の言語ではなく、「a」が magazine catch bar という言語に使用されていることにより、その通常の意味において、「a magazine catch bar」 は 「removed catch bar or a new or different catch bar」 であり得る、と説明しました。

補足説明

これだけだとよくわからないと思うので、発明と特許のクレーム文言の解釈に関する追加の説明をします。

まず、特許権者であるEvolusion社は、着脱式マガジンを備えた半自動小銃を固定式マガジンを備えたものに変換するための装置及び方法に関する特許を所有しています。

日本の人は銃に関しての知識が少ないと思うので、着脱式マガジンと固定式マガジンの違いについて説明します。まず、着脱式マガジン(detachable magazine)は、ユーザーがマガジンがなくなるまで銃を撃つことができ、その後マガジンを外し、新しいマガジンを挿入し、再び撃つことができます。ちょうど特許の図面で示されている番号40のようなものです。

一方、固定式マガジン(fixed magazine)は、マガジンのない部分を分解しないと着脱できないため、発射速度が遅くなります。明細書内では、最近米国議会に提出された法案では、着脱式マガジンを持つ半自動小銃が禁止される可能性があると指摘し、着脱式マガジンを持つ銃器は法的規制が強化される可能性があると言及していて、特許の請求項には、着脱式マガジンを備えた半自動小銃を固定式マガジンを備えたものに変換するための装置の一部として、「magazine catch bar」が記載されています。

図で言うと、図2に示されている番号10が本発明の対象装置で、そのパーツの一部の番号120(図3)が今回問題になった magazine catch bar です。

今回の訴訟では、請求項の「magazine catch bar」が工場で取り付けられた(OEM)マガジンキャッチバーを含むかどうかが争われました。

連邦地裁は、請求項及び明細書で使用されている「magazine catch bar」という用語は、OEMのマガジンキャッチバーを除外していると結論づけました。連邦地裁の結論は、主に明細書の「本発明は、標準的なOEMマガジンキャッチアセンブリを取り外し本発明を取り付けることによって、半自動銃器に追加される恒久的な固定具である」という文章に基づくものでした。

裁判所は、OEMマガジンは本発明を取り付けるために取り外される部品の一つであるため、本発明の「magazine catch bar」はOEMマガジンキャッチバーではあり得ないと推論しました。

しかし、連邦巡回控訴裁(CAFC)は、この地裁におけるクレーム構造の誤りを指摘して、判決を覆しました。

CAFCは、装置のクレームの文言には、「magazine catch bar」という一般用語の範囲は特に限定されておらず、工場で取り付けられたものを除外するものはないと説明。CAFCは、工場で取り付けられたマガジンリリースボタンアセンブリの全ての部品を取り外すというステップを記載した方法クレームが、「magazine catch bar」が工場で取り付けられたマガジンキャッチバーではないことを要求しているというJuggernaut社の主張を退け、方法クレームには、OEMキャッチバーを「廃棄」すること、「新しい」又は「異なる」キャッチバーを取り付けることを要求するものはなかったと説明。従って、装置の請求項は、取り外されたキャッチバーであるか、新しい又は異なるキャッチバーであるかのいずれかであるmagazine catch barを包含するのに十分広範であるとしました。

CAFCは、明細書もこの通常の意味を支持していると判断し、明細書には、マガジンの固定という目的を達成する限り、「magazine catch bar」の範囲を限定して工場設置のキャッチバーを除外するものはないと説明。また、CAFCは、開示された実施形態がOEMマガジンキャッチバーを図示していないことに違いはないと結論付け、構造上の問題として、通常の意味におけるマガジンキャッチバーであれば、キャッチバーの工場(またはOEM)由来が発明の一部から除外されることを示唆するものは、明細書には何もないと説明しています。当裁判所はさらに、明細書には、工場で取り付けられたマガジンキャッチバーの再取付けを妨げるものは何もないため、「本発明は、標準のOEMマガジンキャッチアセンブリを取り外し、本発明を取り付けることによって半自動銃器に追加される永久的な備品である」という明細書の文に依拠した連邦地裁の判決を否定したました。

このような見解を示し、内在的証拠を考慮した後、CAFCは、「magazine catch bar」という用語を、工場で取り付けられたマガジンキャッチバーを含む、その通常の意味に従って解釈しました。

実際にクレーム1を見てみると、以下のように表現されています。

最初に出てくる「magazine catch bar」は「a magazine catch bar」となっており、firearmにしっかりと取り付けられたと書かれているだけで、それが、すでに firearmについているmagazine catch barなのか、発明品のパーツの一部である「新しい」magazine catch barなのか、どちらの解釈も可能になっているとCAFCは解釈したようです。

参考文献:Claim Element With No Antecedent Basis May Be Broader Than the Same Element With an Antecedent Basis, Magazine Reload: Claim Construction Error Requires Reversal and Remand

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

特許出願
野口 剛史

新型コロナウイルス治療の権利化

ニューズで中国の機関であるWuhan Institute of Virologyがアメリカの実験的な抗ウイルス薬に関する特許を取得する動きを耳にしたことがあると思いますが、そのような中国機関の動きは批難されるようなものではなく、様々な企業や研究所で行われている行為です。

Read More »
mistake
商標
野口 剛史

商標法改正で可能になった抹消手続きと再審査の申請における5つの大きな間違いと回避方法

米国特許庁(USPTO)は、昨年末に抹消手続きと再審査の新しい申請を受け付け始めて以来、170件以上の抹消および再審査の申請を受理しています。手続きがスムーズに行くように同庁は、請願書の適切な準備と提出方法に関するガイダンスを発行しましたが、それでも申立人が容易に治癒できる「よくある間違い」が多数報告されています。今回はそのよくある間違えとその対策方法について話します。

Read More »