ポスト・コロナで訴訟戦略が変わるのか?

アメリカの裁判所は、コロナ禍における裁判に関わる関係者の健康と安全を考慮し、司法制度の運用と機能を維持するために、バーチャル審問や証人の遠隔証言など多くの便宜を図っています。しかし、その一方で、ワクチンが普及してきたこともあり、通常の対面式陪審裁判の実施を強く押し進める裁判所もあります。

コロナ禍で裁判所は対応を迫られている

COVID-19のパンデミックは、アメリカの裁判所や司法制度の運営に大きな影響を与えています。多くの裁判所では、関係者の健康と安全を守るために、バーチャルな審問や証人の遠隔証言などの適切な対応を行うことで柔軟に対応してきましたが、その一方で、裁判が滞ってしまったり(特に民事)、コロナ禍で活動できなかった期間に溜まった大量のバックログの解消が大きな課題になっています。

ワクチンの登場で対応に変化が?

今までは対面式陪審裁判の実施は極力避けられていて、バーチャルで行う手続きに切り替える取り組みが行われていましたが、FDAがCOVID-19ワクチン3種の緊急使用を承認したことで、パンデミックは曲がり角を迎えています。すでに何百万人ものアメリカ人が少なくとも1回は接種しており、接種対象者の拡大に伴い、さらに多くの人が接種を受けることになります。このコトを受け、裁判所での対面式陪審裁判の実施など、国が正常な状態に戻るための努力も行われています。

特許訴訟でも変化が?

現在係争中の特許侵害訴訟であるMaxell Ltd. v. Apple Inc., 5:19-cv-00036-RWS (E.D. Tex. Mar. 15, 2021)の最近の判決は、パンデミックから正常な状態に戻ろうとする試みを示しています。しかし、その一方でバーチャルな証言などのパンデミックの一部の要素は、パンデミック前の裁判手続きに戻っても、恒久的に定着する可能性があります。

コロナのリスクと裁判の延長のバランスはどこにあるのか?

当初、Apple社はUSPTOでの審査手続きが完了するまでの裁判手続きの停止を求めていましたが、裁判所はこれを却下。その後、Apple社は、パンデミックが裁判参加者にリスクをもたらし、Apple社の完全かつ公正な裁判を受ける権利を損なうことになるため、裁判参加者がCOVID-19ワクチンを接種できるように裁判期日の継続を求めていました。

これに対し、原告のMaxell社は、当事者は裁判を安全に実施する準備ができており、参加者の安全と健康を確保するための多くの予防措置が講じられていると回答。さらに、Maxell社は、Apple社がCOVID-19の安全性に関する問題を提起したのは今回が初めてであり、COVID-19のリスクは当初予定していた公判期日の方が大きかったと述べました。

特許訴訟にも対面式陪審裁判が戻ってくる?

これらの当事者の主張を考慮した結果、裁判所はApple社の公判期日延長の申し立てを却下しました。

第一に、裁判所は、同地区がCDCから出された勧告を遵守しており、参加者の健康と安全を維持しながら完全で公正な裁判を行うために、数々の予防措置を講じていることを示しました。

第二に、パンデミックが終息する保証や、スケジュールが変更された際に裁判所が対応できるかどうかの保証がないため、訴訟を延期することは、Maxwell社の特許権を適時に行使する権利をさらに損ねるという懸念を示しました。また、裁判所は、専門家や事実証人が直接証言できず、遠隔地で証言しなければならない場合でも、裁判中にどちらかの側に不均衡な影響を与えることはないと判断しました。

ポスト・コロナで訴訟戦略が変わる?

このMaxell Ltd. v. Apple Inc.における判事の判決は、今後COVID-19ワクチンの展開とワクチン接種対象者の拡大から、裁判参加者の健康と安全を確保するという名目でどのように当事者が戦略的に優位性を持てるかを考える上で参考になります。

例えば、対面式の業務を再開した裁判所は、裁判参加者のワクチン接種のための公判の遅れを容認することに前向きではないかもしれません。対面式陪審裁判裁を含めた様々な対面における手続きを積極的におこなっている判所は、パンデミックの問題を考慮して、司法制度の運用と機能を維持するために、裁判参加者に多くの便宜を図っています。

司法業界は「変化」を恐れる傾向にあるので、リモートが当たり前になった今から、コロナ前の対面式手続きに「戻る」ことにも抵抗を示すこともあるでしょう。しかし、今回のコロナ禍で導入されたバーチャルな証言などの新しく便利な仕組みを導入して、更に効率よく、「正しい」司法における判断ができるような環境になっていったらと思います。

参考文献:”Texas Court Will Not Delay In-Person Trial to Permit Vaccination of Participants” by Thomas J. Kowalski, Deborah L. Lu, Ph.D. and Brandon A. Chan, Ph.D.Duane Morris LLP

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