2023年もPTABにおいて特許クレームが無効になる確率は70%台になるかも

特許審判部(PTAB)は、過去4年間、最終書面決定(final written decision)で扱ったクレームの70%以上を特許不可としてきています。この割合は、特許権者にとって安心できるものではなく、もし手続きが始まったのであれば、最終書面決定を回避するための代替的な解決策を検討すべきです。過去の傾向および手続き開始率の上昇を含むPTABの現在の状況を考慮すると、最終書面決定における特許無効の割合は2023年も高い水準で継続すると予想されます。

IPRが開始される率よりも、最終書面決定でクレームを特許不可と判断する率が重要

当事者間審査(IPR)手続で競合他社と争う場合、最終目標は何でしょうか?もちろん、勝つことです。しかし、成功する確率はどの程度なのでしょうか?この記事では、過去4年間のPTABにおける特許権者と特許異議申立人の勝率を調査し、2023年の予測も示しています。

しばしば、専門家は、PTABの審理の開始率の変動に注目しすぎることがあります。しかし、いったん手続が開始され、審判が終了すると、最終的に重要なのは、PTABが最終書面決定でクレームを特許不可と判断する率です。

最終書面決定において70%以上のクレームを特許不可

この特許不可率(unpatentability rate)は、PTABがEnd of Year Outcome Roundupで提供する生データから算出することができます。PTABは、最終書面決定において、70%以上のクレームを特許不可と判断しています。以下のグラフは、過去4年間のPTABによる最終書面決定時の特許不不可率を示しています。

つまり、PTABが最終書面決定で検討する10個のクレームに対して、7個以上が特許不可と判断される可能性が高いということです。

ここで、特許ごとに少し異なる方法で生の数字を分析すると、過去4年間に最終書面決定を受けた特許の60%は、異議を唱えられたすべてのクレームが特許不可とされました。この数値は2022年に最も高く、66%でした。つまり、3件の特許のうち2件は、問題となったクレームが1つも生き残らなかったことになります。一方、過去4年間、最終的な書面決定を受けずに済んだ特許は、わずか19%に過ぎません。

最終書面決定を避けるにはインスティテューションにおける戦略が大事

これは、特許権者にとって決して安心できる数字ではありません。特許権者にとって重要なことは、PTABによる特許不可の判断を回避する最善の方法は、そもそもの手続きの開始(institution)を回避することです。特許権者は、可能な限り、インスティテューションの段階でIPRの異議を打ち負かすために最大限の努力を払う必要があります。しかし、それが失敗し、インスティチューションされた場合、特許権者は少なくともその立場を再評価し、最終書面決定を回避するために代替案をより重点的に検討する必要があります。

このような状況は、逆に言うと、特許を無効にしたい特許挑戦者側にとって魅力的な数字です。特許挑戦者にとって重要なことは、もしインスティテューションのハードルを乗り越えれば、問題となるクレームの圧倒的大多数について特許不可の判断を得る可能性が十分にあるということです。特許権者は、PTABの70%(またはそれ以上)の確率で特許不可とされることを回避するために、インスティテューション後の紛争を解決しようとする傾向があるため、このことは、解決の機会に関して特許挑戦者に特許権者に対する大きな影響力を与える可能性があります。

データからは、もう一つの傾向が見て取れます。それは特許不可とされる率(unpatentability rate)は、毎年ほぼ一定に推移していることです。実際、最近の非率は2011年から2019年までの過去のもの(PTABによると77%)より少し低いものの、それほどかけ離れてはいないのです。

2023年を見据えた場合、この特許不定率はあまり変化することはないでしょう。過去の傾向や、裁量棄却率が低下してインスティテューション率が上昇するなどのPTABの現状から、2023年のPTABの特許不可率は70%台(またはそれ以上)にとどまると予想されます。2023年もPTABにおけるIPR手続きは重要になってきます。つまり、PATABにおける特許不可率は統計上70%台ということを考慮しながら、訴訟・IPR戦略を行っていく必要があるのです。

参考記事:What to Expect from the PTAB in 2023: Unpatentability Rates

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

特許出願
野口 剛史

クレームのPreambleには気をつける

大部分の特許において、クレームのPreambleは特に重要なものとして扱われていません。しかし、場合によっては侵害や有効性を左右する重要な条件の1つになりえます。

Read More »
特許出願
野口 剛史

訴訟弁護士が特許を書くべき

特許は正確に書くのが難しい法律関係書類だとアメリカの最高裁が認めるほどのものですが、誰がそのような特許を書くべきかということに対してあまり関心が向けられていません。今回は訴訟を念頭に置くのであれば、特許は訴訟弁護士が書くべきだという主張を紹介します。

Read More »