SAS判決で大きく変わるIPR estoppelの適用範囲
SAS判決が下された2018年4月の時点でIPRや上訴が保留中だった際、一部のクレームや主張がIPRで考慮されず、その点について上訴が行われなかった場合、考慮されなかったクレームや主張に対しても地裁でEstoppelが適用される可能性があります。
2018年4月のSAS判決の時期にIPRの手続き中、または、上訴していた申立人にとっては、今回紹介する判例は、よくない判決です。逆に、2018年4月のSAS判決の時期にIPRの対象になっていた特許を持つ企業に対しては、いい判決です。
今回紹介するSiOnyx, LLC v. Hamamatsu Photonics K.K.は、OLCで何度も取り上げてきた最高裁によるSAS判決に関する重要な判例です。特に、SAS判決の時点でIPRがPartial institutionであったもので、SAS判決後Partial institutionについて再審議が主張しなかった場合、後の訴訟で考慮されなかったクレームや主張に対してもEstoppelが適用される可能性があります
この問題は、特許訴訟から始まります。裁判が進む中、被告人の1社が訴訟対象特許に対してIPRを行いました。しかし、SAS判決前だったので、申立書で主張した一部のクレームに対しては審議されないPartial institutionという形で手続きが進みました。そして、IPR終了後、被告人は上訴を行いませんでした。SAS判決は、被告人がIPRを上訴できる期間中に行われました。
このIPRの経緯を元に、継続中の訴訟において、特許権者はIPR対象特許に対して、審議されなかったクレームも含め、被告人が無効を主張できなくするよう裁判所に求めます。裁判所はこのようなEstoppelは適用されるべきとして、特許権者の主張を受け入れました。その理由は、Partial institutionを禁止したSAS判決が下った際に、IPRを起こした被告人はPartial institutionに対して再審議を主張できたにもかかわらず、そのことを怠ったからです。
[IPR petitioner] could have appealed and sought such a remand in order to allow the PTAB [to] evaluate the claims and grounds that it raised in its petition on which the PTAB did not institute review. It therefore “reasonably could have raised” those grounds before the PTAB against any claim in the ’591 patent, and is estopped from raising them again before this Court.
SAS判決以前では、IPRが特許訴訟におよぼすEstoppelの範囲は、(1)PTABの判決に書かれている先行文献と(2)申立書で主張できたはずの先行文献でした。つまり、(3)申立書には書かれていたが実際に審議されなかったものはEstoppelの対象外になっていました。しかし、この判決で、Partial institutionに対して再審議が主張されなかった場合、この(3)に関わる文献に対してもEstoppelが適用されることになりました。
この記事の著者、Kenneth Luchesi弁護士は、知財関連の訴訟弁護士で、エンジニアとしての経験もある人です。地裁での特許訴訟の経験も豊富です。今回の記事で、彼の重要判例であるSAS判決に対する知識や戦略の一部が垣間見られたと思います。
SAS判決は、Post-SASという表現もあるようなIPRに関わる重要な判決です。今後も判決が下された2018年4月という時期を境にIPRに関わる様々な判例が出てくることが予想されます。今回紹介した訴訟もその1つで、Partial institutionに対して再審議が主張されなかった場合のEstoppel適用範囲を拡大した判例でした。
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- By 野口 剛史
- 9月 25, 2018
- 2:21 pm
SAS判決で大きく変わるIPR estoppelの適用範囲
SAS判決が下された2018年4月の時点でIPRや上訴が保留中だった際、一部のクレームや主張がIPRで考慮されず、その点について上訴が行われなかった場合、考慮されなかったクレームや主張に対しても地裁でEstoppelが適用される可能性があります。
2018年4月のSAS判決の時期にIPRの手続き中、または、上訴していた申立人にとっては、今回紹介する判例は、よくない判決です。逆に、2018年4月のSAS判決の時期にIPRの対象になっていた特許を持つ企業に対しては、いい判決です。
今回紹介するSiOnyx, LLC v. Hamamatsu Photonics K.K.は、OLCで何度も取り上げてきた最高裁によるSAS判決に関する重要な判例です。特に、SAS判決の時点でIPRがPartial institutionであったもので、SAS判決後Partial institutionについて再審議が主張しなかった場合、後の訴訟で考慮されなかったクレームや主張に対してもEstoppelが適用される可能性があります
この問題は、特許訴訟から始まります。裁判が進む中、被告人の1社が訴訟対象特許に対してIPRを行いました。しかし、SAS判決前だったので、申立書で主張した一部のクレームに対しては審議されないPartial institutionという形で手続きが進みました。そして、IPR終了後、被告人は上訴を行いませんでした。SAS判決は、被告人がIPRを上訴できる期間中に行われました。
このIPRの経緯を元に、継続中の訴訟において、特許権者はIPR対象特許に対して、審議されなかったクレームも含め、被告人が無効を主張できなくするよう裁判所に求めます。裁判所はこのようなEstoppelは適用されるべきとして、特許権者の主張を受け入れました。その理由は、Partial institutionを禁止したSAS判決が下った際に、IPRを起こした被告人はPartial institutionに対して再審議を主張できたにもかかわらず、そのことを怠ったからです。
[IPR petitioner] could have appealed and sought such a remand in order to allow the PTAB [to] evaluate the claims and grounds that it raised in its petition on which the PTAB did not institute review. It therefore “reasonably could have raised” those grounds before the PTAB against any claim in the ’591 patent, and is estopped from raising them again before this Court.
SAS判決以前では、IPRが特許訴訟におよぼすEstoppelの範囲は、(1)PTABの判決に書かれている先行文献と(2)申立書で主張できたはずの先行文献でした。つまり、(3)申立書には書かれていたが実際に審議されなかったものはEstoppelの対象外になっていました。しかし、この判決で、Partial institutionに対して再審議が主張されなかった場合、この(3)に関わる文献に対してもEstoppelが適用されることになりました。
この記事の著者、Kenneth Luchesi弁護士は、知財関連の訴訟弁護士で、エンジニアとしての経験もある人です。地裁での特許訴訟の経験も豊富です。今回の記事で、彼の重要判例であるSAS判決に対する知識や戦略の一部が垣間見られたと思います。
SAS判決は、Post-SASという表現もあるようなIPRに関わる重要な判決です。今後も判決が下された2018年4月という時期を境にIPRに関わる様々な判例が出てくることが予想されます。今回紹介した訴訟もその1つで、Partial institutionに対して再審議が主張されなかった場合のEstoppel適用範囲を拡大した判例でした。